映画のポスタービジュアル(c)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
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──ライブやニューヨークでヴェルヴェット・アンダーグラウンドやアンディ・ウォーホルと接触するシーンなど、事実に基づいているようですが、脚色もありますか?

「デヴィッド自身が語っているし、そこに居合わせた人たちも語っている。ウォーホルとの出会いやファクトリーでの出来事は映像で残っているし、ヴェルヴェットを見に行って、ルー・リードと話したと思っていたが、実は本人ではなかったという笑い話まで。いろんな逸話が残っていて役に立った。すべてのシーンが、何らかの事実に基づいている。例えば空港に到着したとき、レコード会社の担当者ロンの母が一緒に迎えに来てくれて、彼女の家に滞在したのは事実だ。ラジオ局でのインタビューで失言したというのも事実。米国で必要なビザや書類がなくて、公の場でアーティストとしてアルバム曲を歌えなかったことがあるのも事実だよ」

──ドキュメンタリー作品も少なくないですし、熱狂的ファンも多いので、監督としてはかなり気を使ったのでは?

「そうだね。ただ映画で取り上げた時代のボウイについては、驚くほど知られていないんだ。多くの人が思い描くボウイ像は、この映画が描いた時代以降のものだと思う。ジギー・スターダストであったり、アラジン・セインであったり、レッツ・ダンス以降であったり。ボウイというと神のように完璧なアーティストと考えられがちだが、すべて計画に基づいて創作された印象を受ける。その死を含めて。けれども若いころの彼は、ほとんど観客のいない会場で歌ったし、多くのアーティストが体験する下積みの時代、苦労の時代もあったんだということだよ」

(高野裕子=在ロンドン)

週刊朝日  2021年10月15日号