「うちの売り」異なる工夫に商人の血が騒ぐ(イラスト:サヲリブラウン)
「うちの売り」異なる工夫に商人の血が騒ぐ(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 かなーり遅めの夏休みをいただき、ゆっくり温泉に浸かってきました。年内にしっかり休めた自分が誇らしい。放っておいたら、疲れた疲れたと言いながら、無限に働き続けてしまうタチなので。

 今回は、長野で1軒、石川で2軒の温泉宿に滞在。吟味を重ねた甲斐あって、いずれも大満足でした。と同時に、先週の「スーパー総選挙」よろしく、それぞれの宿が打ち出す「うちの売り」が非常に明確で、客商売はこうでなくっちゃと、興奮で膨らんだ鼻の穴を隠すのが大変でした。

 風呂、料理、部屋の作り、接客といった基本的な要素にホスピタリティがあふれていたのは当然のこと、誰がターゲットかはホームページのどこを見ても記されていないのに、様々な要素にしっかりそれが表れているのです。そして、ターゲットと思しき宿泊客がきちんと集まっている。

 長野の宿には、若い頃に豊かな日本を経験した60代以上の女性客と、シニア夫婦。石川の最初の宿には、老いた親を連れてきてあげた中年夫婦たち。次の宿では、外国人宿泊客。こうもきれいに分かれるかと驚きもしました。

 宿泊客のリクエストに応えるうちにサービスが変化した可能性もありますが、どの宿もオーナーは2代目3代目のようで、先代とは異なる工夫が間違いなく必要だったはず。

 最後の宿で仲居さんから聞いた話だと、2代目オーナーは「これからは外国人観光客の時代」と、ヨーロッパの宿ミシュラン的なものに掲載されるよう働きかけたとか。道理で、そこかしこでフランス語が聞こえてくるわけです。

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