コロナ禍で弔問客も限られ、そのぶん父親と過ごす時間をたっぷりとれたのは良かったという。
「納棺のときの会話を細かく再現できたのは、メモしていたこともありますが、すべてが初体験だったから。こうやってシャツをひっくり返してなど、具体的な行為に付随していて、まるでプラモデルの設計図みたいなやりとりでした」
意外だったのは、納棺師が父親の手や足を時間をかけてマッサージしていた理由だ。死後硬直のことは知っていたが、服を着せるために筋肉ではなく関節をほぐしているとのことだった。
「彼女はいつも家族とお話しされるそうで、雑談をいっぱいしました」
その後、納棺師を育成する「おくりびとアカデミー」の木村光希氏や、解剖学者の養老孟司氏に話を聞きに行った。その中で、故人の身体に触れるのは、死者をケアする行為であるとともに、自身へのケアにもなっていることを理解した。
「養老さんが、お墓は遺された人のためにあると話されていましたが、親や友達とは亡くなってからも記憶でつながっていたいという思いがあると思います。そうでないと人類はこんなにお墓を作ってきてないはずです」
(朝山実)
※週刊朝日 2022年11月18日号