週刊朝日 2022年11月18日号より
週刊朝日 2022年11月18日号より

 ロックスターたちが登場するギャグ漫画「8ビートギャグ」などで知られる漫画家のシマあつこさんはこう語る。

「アルバムのセールスが少しずつ落ち着いてきたころに、さらに多くの人に聴いてもらうにはどうすればいいのかを考えた末に生まれたのが『スリラー』のミュージックビデオだったそうですね。あの映像があったからこそ、現在までの売り上げにつながったような気がします。音楽だけにとどまらず、あらゆる方向からこの曲をアピールしたいというエンタメ意識の強さを感じます」

 こんな事情で作られたミュージックビデオが、アメリカ中で数え切れないほど再生されていく。西川氏は言う。

「ホームステイ先の子供たちが何度も見ては走り回って踊っていました。街のあらゆるところで流れ、人種や世代を超えて爆発的に人気が広がりました。それまでMTVが黒人アーティストをフィーチャーすることはあまりありませんでしたが、マイケルは人種の壁をブチ壊したんです。音楽、ダンス、ファッション……世界のポップカルチャーを塗り替え、『マイケル・ジャクソンは、プレスリー、ビートルズに匹敵する“フィノメノン(現象)”だ』と衝撃を与えました」

 言うまでもなく、「スリラー」は日本でも大ヒット。オリコンの洋楽チャートでも12週連続1位を獲得した。

 マイケルのダンスでもうひとつのエポックとなったのが、前に歩いているように見せながら後ろに歩く技法「ムーンウォーク」だ。83年、かつて所属したモータウン・レコードの25周年記念コンサートに出演したマイケルは、モータウン時代(ジャクソン5)のナンバーでなく、アルバムからの第2弾シングル、新曲の「ビリー・ジーン」を歌唱。このステージで初めてムーンウォークを披露し、世界をあっと言わせた。前出のJackさんは言う。

「あそこで新曲を持ってきて、世界の誰もが見たことのない動きを見せた。その大胆さとビジネス的センスはすごい。その日のムーンウォークが、マイケルのダンスの独自性を確立した瞬間だったと思います。それまでは男性がダンスすることは『女々しい』とされる空気もあったようですが、マイケル以後は多くの男性がスクールに通い、ストリートでも踊るようになった。ダンスの時代を大きく変えた瞬間のほとんどを、マイケルが作ったのではないでしょうか」

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