AERA 2023年1月2ー9日合併号より
AERA 2023年1月2ー9日合併号より

 水野梓さんは、日本テレビ局員でドキュメンタリー番組などのプロデューサーやニュース番組のデスクなどを歴任されている方です。第一線で活躍しながら小説を書く水野さんは間違いなくスーパーウーマンだと思います。しかし、水野さんの視線は、いつも社会的弱者に向けられています。

 デビュー作の『蝶の眠る場所』では冤罪を、2作目の『名もなき子』では無戸籍問題などを、最新作の『彼女たちのいる風景』では、同じ大学の同級生だった3人の女性を主人公に、障害児を抱え、貧困から抜け出せずにいるシングルマザー、出産後に「マミートラック」に追いやられた女性、週刊誌のサブデスクまで上り詰めながらも不妊治療に悩む女性などの姿を描きます。『彼女たちのいる風景』は、ある程度の年齢の女性であれば、絶対に誰かに自分や身近な人を重ねずにはいられないと思うんです。

 水野さんは、デビュー作はミステリーですが、ミステリーという枠に収まらない小説を今後も書かれるのではないでしょうか。起きている社会問題に小説という形で読者を向き合わせてくれる作家だと思います。

 ここのところ短歌の人気が続いていて木下龍也さんをはじめ若手歌人の活躍も目立ちます。そんな中、特に注目されている方が川野芽生さんです。彼女は歌人としても人気ですが、22年には短篇集『無垢なる花たちのためのユートピア』、掌篇集『月面文字翻刻一例』を出版しています。

 普段使わない言葉づかいや漢字などが出てくるのですが、大正文学を読んでいるような感覚に陥ります。その一方で、けっして甘すぎない叙情性に満ちていて、異世界を描いても現代の問題に通じる部分もある。絶妙なバランス感覚です。

 詩歌、俳句のジャンルに興味を持つ人が、若い世代に増えています。

 また、BL作家が一般小説を書くことも増えています。凪良ゆうさんや一穂ミチさんに続く人気作家に期待しています。

 自分でこういうジャンルが好きとか、このジャンルの人だからとは決めつけずに、どんどん興味を持ったものに、作家も読み手も、より一層関われる時代なのだなと思います。

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