中将:それだけご苦労されてでも早川さんが作品集に投影したかった世界観とはどのようなものでしょうか。
早川:僕はそもそも当時のイラストレーターブームに乗せられて、大橋歩さんや横尾忠則さんに憧れるイラストレーター志望でした。沢田さんの衣装デザインも初めはアルバイト感覚で、どうせなら面白いこと自分の好きなことをやってやろうという感じだった。当時、僕はすでに洗練されたファッション世界というのは付け焼刃では無理だと理解していましたし、好きなものを集めてきて積み重ねる……だったかもしれませんが、僕は量販店みたいなシンプルで機能的な服ばかりがもてはやされる世界はディストピア小説みたいで好きじゃないんです。めいめいが好きに着飾っていて、遊び回っていて、ちょっと退廃的で……そういうのがいいと思ってる。今回の作品集にもそんなことを投影したつもりです。
中将:結果的に現代社会に対するアンチテーゼのようになっている部分があるかもしれませんね。
早川:別に世間になにか物申してやろうという気はないんですけどね。現代って一見は機能美を追求した住みやすい社会みたいになってるけど、実際は違うじゃないですか。格差社会だし、音楽もファッションも映画にしたって流行ってるものは画一化されて面白くない。僕が時代からずれちゃってるだけかもしれないけど、昔はもっとカウンターカルチャーというか、既成のものを打壊して新しいものを作ってやろうと意気込みを感じましたよね。
中将:早川さんご自身からもカウンターカルチャーに近いスタンスを感じます。
早川:セツ・モードセミナーの仲間や長沢節先生はまさにカウンターカルチャーの人間でしたからね。僕は政治的な主張はしないけど、染み付いてしまっている部分があると思いますよ。振り返れば僕自身、1970年代の時点で大量生産、大量消費みたいな商業ファッションの枠からは外れてしまっていたわけですし。