短期集中連載「起業は巡る」。第2シリーズの最後に登場するのは、日本にプログラミング教育を根付かせた「ライフイズテック」の水野雄介(38)だ。AERA 2021年12月13日号の記事の2回目。
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起業するには仲間がいる。水野がイメージしたのは、中高時代から愛読してきた漫画『ワンピース』だ。海賊王を目指す主人公のルフィは言う。
「おれは助けてもらわねぇと生きていけねぇ自信がある!」
「剣豪・ゾロ」を獲得
ルフィを助ける仲間の一人が剣豪のゾロ。思い当たる男がいた。大学時代、水野が所属していたテニスサークル「ソフィア」の代表だった松井晋平だ。サークルといっても部員200人を擁し、代表には社長並みの度量が求められる。目標を見つけると勝ち筋を探り、緻密(ちみつ)に戦略を立てていく。そんな松井に、副代表だった水野はマージャンで勝った記憶がない。ゾロのように勝負強いのだ。
サークル活動に熱中しすぎた松井は、4年経っても2年分の単位しか取れず、大学を中退した。その後、アニメやゲームといったサブカルチャーにどっぷりハマり、秋葉原に通う日々を送る。その甲斐(かい)あってかヨドバシカメラに就職が決まると、すぐに社内で頭角を現した。
当時、大ヒットしていた携帯型ゲーム機ニンテンドーDSのソフト「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」には、ユーザーとプロフィルを交換できる「すれちがい通信機能」がある。売り場はプロフィルを交換したい人でごった返していた。これを見た松井は、1階の広場でグッズや飲食を提供する「ルイーダの酒場」の開設を提案。ゲーマーが殺到する名所になった。
水野が松井に声をかけたのは、ちょうどそのころだ。ヨドバシカメラでの仕事がうまくいき始めた矢先だったが、松井は「中高生版キッザニア」という水野の案に飛びついた。その時のことを松井はこう振り返る。
「咄嗟(とっさ)に、こういうのがやりたい!と思ったんです。どこへ向かったらいいか分からず、がむしゃらに走っていた自分にとって、行き先を示してくれた水野はまさに船長でした」
オタクヒーロー化計画
松井は水野のアイデアを事業計画に落とし込んだ。その名も「オタク ヒーロー化計画」。教室の隅っこにいるゲームやアニメオタクをヒーローに育てるビジネスだ。