5期13年にわたり実権を握り続けた「日大のドン」こと田中英寿前理事長(74)が脱税容疑で逮捕されてから1週間。大学トップの逮捕に、日大関係者のみならず、受験生やその保護者のなかにも衝撃を受けた人は多いだろう。今回の不祥事は、日大の志願状況や受験業界にどの程度影響を与えるのか。入試難易度にも変化が生じる可能性はあるのか――。受験や大学に詳しい識者に聞いた。
【写真】2021年入試で、志願者数を3割以上も減らした「名門」大学といえば
* * *
日大は、7月に現職理事が逮捕、11月に理事長逮捕と不祥事が相次いでいる。大学通信常務取締役の安田賢治氏は、一連の事件が受験業界に及ぼす影響について、こう見通しを語る。
「これまで大学の不祥事といえば、わいせつ系や学生の大麻使用などが多く、理事長が脱税で逮捕される今回のようなケースは、あまり前例がありません。2018年の悪質タックル騒動も過去に例がなかったなかで、翌年の志願者を1万5000人近く減らしました。脱税や贈収賄と言われてもピンとこない受験生も多いでしょうが、保護者には納得できない人もいるでしょうし、不安を募らせるかもしれません。ただ今回の一件が、どの程度影響を及ぼすのかは非常に読みづらい」
教育ジャーナリストの小林哲夫氏は「志願者数の増減などは、入試方法や科目、日程などが大幅に変わった際に生じるもの。過去、不祥事で志願者を減らした大学はあまり聞かない」としつつ、不祥事をきっかけに志願者減少に転じた数少ない例として、安田氏と同様、日大アメフト部の悪質タックル騒動を挙げる。騒動前の18年度の志願者数は11万4316人だったが、翌年は9万9972人(前年比87%)となった。
「受験者が暴力的な体質を嫌うのは当然です。悪質タックルのシーンをテレビで何回も見せられれば、『日大は怖い』とすり込まれ、進学したいと思わなくなる。それが大幅減少の原因です。また、この騒動は特に、スポーツ学生の進学状況に大きな影響を与えました。騒動を機に、高校時代のトップアスリートが青学、中央、明治、法政、東洋、日体大、駒澤、専修などに流れたのです。高校の部活顧問や体育教師が日大を薦めなかったケースも実際にあります」