誹謗中傷対策の一環で、違反コメント数などが基準を超えるとコメント欄を閉鎖する機能が導入されている(photo 写真部・高橋奈緒)
誹謗中傷対策の一環で、違反コメント数などが基準を超えるとコメント欄を閉鎖する機能が導入されている(photo 写真部・高橋奈緒)

 ネットの記事につくコメントで、極端なバッシングが起きることが頻発している。なぜか。私たちは知らぬまに、同方向の情報や意見にしか触れられないようになっているのだ。AERA 2021年12月20日号の記事を紹介する。

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 小さな町で起きた事件が、全国を駆け巡った。

 愛知県弥富市の市立中学校で3年生の男子生徒が刺され、死亡した。殺人容疑で送検されたのは、同学年の男子生徒だった。生徒は取り調べに素直に応じ、「悪いことをした」とも話しているという。

 14歳の少年たちの間に、いったい何があったのか。2週間以上たった今も、明確な動機は依然として浮かんでいない。その不明瞭さに反して、ネットでは過激な臆測が飛び交っている。

■風向きがすぐに変わる

 事件が起きたのは11月24日の午前8時頃。被害生徒が亡くなったことが報じられたのは、約2時間後だった。訃報を知らせたあるネット記事には、ヤフー上で4700件以上のコメントがついた。この時点では、被害生徒を悼む声や事件の動機を知りたいとする声が目立ち、事件が防げなかったことを悔やむコメントも目立った。流れが変わったのは、あるニュース記事からだ。

<逮捕の中3生 いじめ被害の供述>

 事件翌日の午前、ヤフートップにそうタイトルが並ぶや、コメント欄には被害生徒を批判する声が増え始める。かつていじめられた経験を持つという人からは、自身の体験を振り返りその悲惨さを訴えるコメントが書き込まれた。この記事についたコメントは約1万2千件にも上り、被害生徒に向けられた批判はSNSや掲示板でも広がっていく。

「いじめていた子の親は謝罪会見をしろ」「殺されてもいじめてたんだから何も言えないよ」

 記事を引用する形で投稿されたのは、被害生徒に落ち度があるとする声だった。この時点では「いじめ」の内容は明らかになっておらず、警察もトラブルは見当たらないとしていた。

 だが、翌朝にはさらに風向きが変わる。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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