トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたマイケル・フリン氏は、9月末の選挙集会で、聴衆にこう語った。
「連邦政府機関の9割は閉鎖されるべきだ。知事は戦争を宣言することができる。我々はそれを目のあたりにするかもしれない」
■「国が乗っ取られつつある」 そう訴える地方に住む白人
では、こうした「内戦」シナリオで想定されている、社会の現状に不満を募らせ「この国が乗っ取られようとしている」と主張する人々とは、どんな人々なのだろうか。
筆者はペンシルベニア州で150人以上の市井の人々に話を聞くなかで、こうした思いを抱く人々に数多く出会った。その多くは都市部ではなく地方に住む白人で、伝統的な価値観を守るコミュニティーの中で暮らしている人たちだ。
筆者が取材したヨーク近郊の町では、地元の高校が長年使ってきたネイティブ・アメリカンのロゴの変更をめぐって、町を二分する対立が起きていた。「差別的だ」として変更を求める人々に対して、ロゴの維持を求める男性住民の一人は、
「私たちは白人であるというだけで、差別を理解しない抑圧者であるかのように非難されている」
と訴えた。
こうした人々に共通するのが、自分たちが大切にしてきた歴史や文化、宗教が否定され、奪われているという感覚だ。
米国社会はいま、二つの大きな変化に直面している。
その一つが人口動態だ。米国では白人(非ヒスパニック系)の占める割合が、40年代には半数を割り込み、マイノリティーの合計が白人人口を上回る「マジョリティー・マイノリティー」と呼ばれる状態になると予測されている。
そして、この人口動態の変化とも密接に関連しつつ同時進行しているのが、文化や価値観の変化だ。白人の視点だけで見た歴史の見直し、LGBTQの権利拡大などがその代表例だ。性的少数者の権利拡大や妊娠中絶に反対する人々の中には「キリスト教の価値観が脅かされている」と受け止める人も多い。