五輪汚職事件が明るみに出る中、選手やスポーツ界は沈黙を貫いている。元ラグビー日本代表で、神戸親和女子大学教授の平尾剛氏は諸問題の原因は選手にもあると言う。「五輪汚職」を特集したAERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。
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──コロナ禍での開催の是非をめぐって世論が二分する中、無観客で強行開催された東京五輪・パラリンピック。開催前にも、メインスタジアムの国立競技場建設計画が巨額費用の問題視により白紙撤回され、公式エンブレムは盗用疑惑で使用中止に。さらに大会組織委員会の会長だった森喜朗氏が自身の女性蔑視発言の責任をとって辞任するなどさまざまな問題が噴出した。そして開催から1年たったいま、汚職事件が次々と発覚し、五輪への不信感が再び高まっている。
元ラグビー日本代表で神戸親和女子大学教授の平尾剛さん(47)は、五輪をめぐる諸問題の原因は選手にもあると指摘する。
平尾:新型コロナウイルスによる開催延期や森喜朗氏の会長辞任など、昨夏の東京五輪は開催前からさまざまな問題が指摘されていました。あれから1年以上がたち、贈賄問題まで発覚。関係者の逮捕が相次いでいます。
■見過ごしてきた結果
なぜ、五輪の闇がここまで肥大化してしまったのか。アスリートや指導者など、スポーツ界全体が「おかしさ」を見過ごしてきた結果だと思っています。
僕自身も含めて、内部から適切な批判ができなかったから、どこから手を付けていいかわからないほど問題が大きくなってしまった。ここでしっかり膿(うみ)を出し切らないといけません。
──不祥事に批判が集まる一方で、当事者であるアスリートの声はほとんど聞こえてこなかった。なぜ、選手は自分の言葉で語らないのか。
平尾:幼い頃から競技に打ち込んできたアスリートたちは、社会から隔絶された存在です。一つのことに打ち込むことが美徳とされ、生活のなかでスポーツが占める割合も圧倒的に多い。当然、周囲も関係者ばかりになり、そこで純粋培養されてしまうんです。
そうして、アスリートの多くは、異論を唱えるよりも、置かれた環境でベストを尽くすという思考に染まる。酷暑であっても最大限の準備をしてパフォーマンスを発揮すべく努力するし、「暑い」と指摘するのは意見ではなく言い訳で、“負け犬の遠吠え”だと考えている。この価値観が発言を思い留まらせていると思います。