平尾剛(ひらお・つよし)/1975年生まれ。同志社大学を卒業後、神戸製鋼に加入。ラグビー日本代表のバックスとして99年のW杯に出場。専門はスポーツ教育、身体論。著書に『脱・筋トレ思考』など(写真:本人提供)
平尾剛(ひらお・つよし)/1975年生まれ。同志社大学を卒業後、神戸製鋼に加入。ラグビー日本代表のバックスとして99年のW杯に出場。専門はスポーツ教育、身体論。著書に『脱・筋トレ思考』など(写真:本人提供)

 思春期になれば、競技だけでいいのかと人生に悩む場面もあります。でも、「体育会」と呼ばれる過度な上下関係のなかでは違和感を言葉にする機会はほとんどありません。「勝ってから考えるべきだ」「ごちゃごちゃ言わずにやれ」という空気があるし、実際にそういったことを言う指導者もいます。

 一心不乱に練習することが結果に結びつく側面はもちろんあります。ただこれは、裏を返せば自分で考えることを放棄しているのに等しい。それに、社会で起きている問題を考えるには、その背景や事情、また歴史を知っておく必要があります。でも、多くのアスリートは学業より練習を優先して上り詰めてきた。だから競技以外に自信が持てず、「自分は無知だ」と自己肯定感が低かったりする。

■旧態依然の男性社会

──一方、世界のアスリートはどうか。東京五輪では、テニス世界ランキング男子1位(当時)のノバク・ジョコビッチ選手らが酷暑を指摘し、試合時間変更を要求。陸上女子砲丸投げで銀メダルを獲得した米国のレーベン・ソーンダーズ選手は表彰式で「X」のポーズをとり、抑圧された人々への連帯を示した。

平尾:海外を見渡せば、自分の意見を表明するアスリートが多くいることに気がつきます。自分たちが持つ影響力に自覚的で、積極的に発信している。でも、日本ではほとんど見当たりません。社会そのものの同調圧力が強いので、社会的な発言に二の足を踏んでしまうのだと思います。

 ですが、日本人選手が誰一人として発言しなかったわけではありません。五輪開催の是非が問われていたときは、陸上の新谷仁美選手や水泳の松本弥生選手がSNSなどを使って複雑な胸の内を明かしました。五輪に対してネガティブな発言をすることで協会から睨(にら)まれるのではないかという不安もあったはずで、とても勇気がいったと思います。元アスリートで当時JOCの理事だった山口香さんも開催ありきではない、大会のあり方の見直しを訴えました。

──五輪に対して意見した国内のアスリートを見ると、女性が多いことに気づく。一方で、森氏が女性蔑視発言で辞任する前の2021年2月時点で、組織委の理事は35人のうち、女性はわずか7人だった。

平尾:男女という区別をつけるのはよくありませんが、スポーツ界には旧態依然の男性社会がいまだに息づいています。日本ラグビー協会が昨年6月まで協会理事を務めていた谷口真由美さんをけん責処分にしたことが問題になっていますが、ここにも年功序列などの時代遅れと言わざるを得ない価値観があります。

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