幼稚園では子どもたちも親たちも、小さな空間のなかで非言語コミュニケーションを学ぶ(写真はイメージです/gettyimages)
幼稚園では子どもたちも親たちも、小さな空間のなかで非言語コミュニケーションを学ぶ(写真はイメージです/gettyimages)

 英語には「Just bring yourself!」という決まり文句があります。「身ひとつで来てね!」、つまりホームパーティーのホストがゲストに伝える、「手ぶらで来てね!」という意味のフレーズです。日常的に使われ、英語学習のテキストでもよく見かけますが、果たして本当に言葉通り手ぶらで行っていいの? というところまでテキストは教えてくれません。

 私が愛読するアメリカ南部のローカル雑誌『Southern Living』は、その疑問に明確な答えを提示してくれます。少なくともアメリカ南部では、「手ぶらで来てね!」はただの建前。何かしらは持参するのがマナーだそうです。でもその何かしらが難しくて、たとえばその場ですぐに飲んだり食べたりしなければいけないものはNG。ホームパーティーのホストは当日の料理プランを綿密に組み立てているものなので、そこに計画外の食べ物や飲み物を持ち込まれるのはありがた迷惑なのだそうです。確かに、料理がかぶったりしたら困りますもんね。アメリカではポットラック(持ち寄り)パーティーも頻繁に行われますが、その際は各自何を持ち寄る予定か、事前にメールなどで共有します。それくらい料理かぶりは避ける傾向にあるのです。

 食べ物を持参して失敗した経験が、私は何度かあります。たとえば友人夫婦に誘われて、彼らの両親のお宅へお邪魔したときのこと。平日の夜で、友人の両親もまだフルタイムで働いているので、その日の食事は宅配ピザでした。手作り料理は一切なし、うつわも紙皿・紙コップの気軽な集まり。それなのに私は気合の入った手作りクッキーを手土産に持っていってしまったのです。軽やかカジュアルな食卓で、手作りクッキーはずいぶん浮いて、いや、ずうんと重たく沈んでいました。

 前述の『Southern Living』によると、手ぶらでと言われつつも持参する手土産の正解は、後日ホストだけで消費できるお菓子やワイン、あるいはいくらあっても困らないキャンドルや鉢植えの花だといいます。花は花でも切り花は避けるべきで、その理由は忙しいパーティーのさなかにホストに花瓶を探し回らせることになってはいけないから。かようにややこしい暗黙のルールがあるアメリカ南部ですが、その比でないのが日本です。アメリカで失敗続きだった私が日本でうまく立ち回れるはずもなく、アメリカ南部から帰国して1年半経った今でもうっかりを繰り返しています。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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死にかけのセミみたいな半袖半ズボン