
日本が「1億総中流」と言われた時代は、はるか昔だ。気づけば、「失われた20年」は「30年」になり、賃金は増えず、物価は上がり、人は格差に疲弊している。もはや「1億総五里霧中」。縮みゆくニッポンで、どのように価値観を転換し、何に幸せを見いだせばいいのか。AERA 2022年9月19日号から。
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体感する経済苦は、境遇によってさまざまだ。
「生活、ギリギリな感じです」
大分県の40代女性は小学生の男の子と家賃5万円の2DKで二人暮らしだ。居酒屋経営を経て、看護師をめざし看護学校に通う。資格取得のための国の制度「高等職業訓練促進給付金」の月14万円と、少ない貯金を切り崩しながらの生活だ。
「毎月、給付金の振り込み前は苦しい。インスタントラーメンを息子と分け合ったり。ガソリンは1リットル180円の私の住んでいる町ではなく、近くの町の167円のスタンドで入れるようにしています」
ただ、女性は「毎日が楽しい」、そう明るい声で話す。なぜか。
「お金を多く持つことが幸せとは思わない。『限られたお金をどうやりくりして、どれだけ楽しめるか』がテーマなんです」
経済格差はあり、自分では埋めようがない。でも、もっと苦しい人もいる。女性はよくこう考えるという。
「私くらいのつらさで、『自分も縮んでしまう』のはだめだな」
40代で一念発起、看護師を目指せているのもその考えからか。
「医療には関心がありませんでしたが、父と母が大きな病に倒れたとき、助けてくれた医師や看護師、ヘルパーさんなど、身近な人たちのありがたさに気づいた。私もそんな人たちを幸せにしたいと思ったんです」
■半径3メートルの充実
経済成長は幻ともはや誰もがわかっている。努力をすれば経済的な豊かさが手に入る時代ではないとしても、一人ひとりの人生の豊かさは伸ばしていけないか。女性の生き方に、何かヒントがあるようにみえる。
健康社会学者の河合薫さんは「自分を取り巻く『半径3メートル』の世界を充実させることが大切」と指摘する。