サザンオールスターズの原 由子が、2023年3月6日・7日の2日間にわたり、神奈川・鎌倉芸術館でワンマンライブ【原 由子 スペシャルライブ 2023『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』】を行い、集まった大勢のファンと音楽を通して人生の喜びを分かち合った。アンコールでは桑田佳祐もサプライズ登場して大盛り上がりとなった7日のライブの模様をお届けする。
この公演は、原の31年ぶり、4作目となるオリジナル・アルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』が昨年10月にリリースされたことを記念して行われたもの。ソロライブが行われるのは2010年7月に同会場で行われた【原 由子スペシャル『はらばん』鎌倉ライブ】以来、13年ぶりとなる。
場内BGMには、ミュージシャン・原 由子のルーツの一部と思われる、往年の洋楽アーティストたちのブルージーな楽曲が流れており、今から始まるライブへの期待に胸が高鳴る。ライブ中はマスクをしての声援がOKとのことで、開演前には「13年ぶりのライブで緊張しているであろう原さんを大きな声で応援してください」とのアナウンスにドッと客席が湧いた。開演時間の18時30分に場内が暗転すると、SEに「さくらさくら」が流れてバンドのメンバーがステージに上がり、大きな拍手と声援に迎えられて、原が登場した。客席に丁寧にお辞儀をして手を振ると、キーボードの前に座り弾き出したイントロは「鎌倉物語」(サザンのアルバム『KAMAKURA』(1985年)収録曲)。最高のシチュエーションでのオープニング曲に、歓喜の声と拍手が起こる。柔らかな歌声と緩やかなバンドの演奏が観客の体を揺らす。ステージバックのスクリーンには、鶴岡八幡宮など鎌倉の景色が次々と映し出されていた。
「こんばんは、原 由子です! 13年ぶりに鎌倉芸術館に戻ってまいりました! 今日はみなさんと一緒に楽しいひとときを過ごしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」
第一声に続いて、曲は「涙の天使に微笑みを」へ。バンドはストリングス、ブラスセクションを左右に配した、10名の豪華編成【斎藤誠(G)、小倉博和(G)、角田俊介(B)、河村“カースケ”智康(Dr)、曽我淳一(Key)、山本拓夫(Sax)、西村浩二(Trumpet)、金原千恵子(Violin)、笠原あやの(Cello)、村石有香(Cho)】。熟練プレイヤーたちによる繊細な演奏が原の歌声にピタリと寄り添っている。「少女時代」では甘酸っぱさのある楽曲を瑞々しく歌い上げてから、「まさか高齢者になって『少女時代』を歌うことになるとは、作ったときには夢にも思ってなかったんですけど(笑)。とっても幸せなことだと思っています」と語り、客席からは朗らかな笑い声と拍手が起こる。
改めてお客さんに来場を感謝すると、全国各地の映画館で行われているライブビューイングの会場に向けて「全国のみなさん、お元気ですかー?」と呼び掛ける一幕も。「今日は、アルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』からの曲、懐かしい曲を織り交ぜながらお送りしたいと思っています。ゆっくり寛いで楽しんでください。私が一番寛げよっていう感じですけど(笑)」と、緊張気味であることに自らツッコミを入れて和ませる。アルバム1曲目を飾る「千の扉~Thousand Doors」では、力強い演奏と歌でMCとのギャップを感じさせた。真っ赤なライトに照らされて歌い出したのは「オモタイキズナ」。ステージ後方では2人のダンサーが曲の世界観を表現する。曲の後半ではアルバムに収録されている桑田佳祐のラップが音声で加わっていた。
「今日は全国から駆け付けてくださった方も多いと聞いています。ここで、旅にまつわる曲を聴いてください」との言葉から、厳かに鍵盤を弾き始めたのは「花咲く旅路」。スクリーンに田園風景が幻想的に映し出される。日本の風景の美しさを抒情的に歌い語るボーカルの豊かな表現力、続くニュー・アルバム収録曲「旅情」での、こみ上げるサビのメロディーながらエモーショナルになりすぎない温度感の歌い回しは彼女ならでは。さらに「京都物語」では格調高さとモダンでダンサブルな16ビートが結びついた楽曲を歌い上げ、旅をテーマにした3曲で楽曲とボーカルの魅力を存分に聴かせてくれた。
「1983年にリリースされた2枚目のソロ・アルバム『Miss YOKOHAMADULT』に収録されている曲を歌いたいと思います。当時、化粧品のコマーシャルにも使われた曲です」との曲紹介から、躍動感溢れるベースラインによるイントロが始まると、観客は総立ちで手拍子を送る。ヒットシングル「恋は、ご多忙申し上げます」だ。歌詞にも登場する、王道のモータウン・サウンドを思わせる演奏と最高に明るいメロディーにより、ライブ前半で一番の盛り上がりとなった。曲が終わると客席のあちこちから、「原坊~!」と声援が飛んでいた。
盛り上がる客席を眺めた原は、「あの、せっかく立っていただいたんですけど、ここでメンバー紹介をしたいと思いますので、どうぞお座りください(笑)」と呼び掛けて場内爆笑。曲とMCの間の緊張と緩和が楽しすぎる。それぞれのエピソードを交えつつ、メンバー紹介。ストリングス・デュオ「トレジョワイユ」としても活動する金原と笠原の紹介では、「お酒で失敗したことがありますか?」と問いかける原に「ありま~す!」と答えた2人が、お酒にまつわる歌詞が出てくる桑田のソロ曲「銀河の星屑」のイントロを弾いてみせたり、コーラスの村石有香が90年代にリリースした自身の代表曲である『キテレツ大百科』のオープニング曲「お料理行進曲」を歌ってメンバーがコーラスしたりと、バンドの一体感を感じられるメンバー紹介となっていた。その後、行進曲つながりで、「ぐでたま行進曲」へ。ぐでたまのアニメーション映像とダンサーの登場で愉快な歌を届けてくれた。
ハンドマイクを持ち立ち上がると、ガラリと雰囲気を変えてジャジーに聴かせた「夜の訪問者」から、椅子に腰かけてアコースティック・ギターを弾きながら「ヤバいね愛てえ奴は」のサイケデリックな音像で別世界に誘う。時代の空気が反映された「Good Times~あの空は何を語る」では、歌詞がスクリーンに映し出されてメッセージを送る。「ぐでたま行進曲」から4曲続いたニュー・アルバムの曲は、表現力の幅広さを感じさせるものだった。
再びキーボードの前に座ると、「鎌倉というと、どんなところがお好きですか? 私はあじさいが綺麗な、成就院とか長谷寺なんかが大好きです」との曲振りから、「あじさいのうた」へ。きらびやかなシンセの音がこの日のライブの中では新鮮に感じられた。スクリーンには江ノ電沿いに咲くあじさいが映し出されて、青や紫のライティングの中で歌い上げた。さらにニュー・アルバムから「鎌倉 On The Beach」を披露。「鎌倉物語」の続編をイメージして書かれたという、今日のライブのキーワード的な曲だけに、華やかな演奏と歌にノッて客席は一段と盛り上がりを見せた。
ライブはいよいよクライマックスへ。バンドメンバー全員が両手でクラップを煽って、ソロ代表曲の1つ「ハートせつなく」のキャッチーな旋律で会場が一体に。「スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)」では、曲のモチーフである“スローハンド”ことエリック・クラプトンをはじめ、歌詞に登場するミュージシャンらしき顔のイラストがスクリーンに登場。原もワイルドな歌い回しで気分を盛り上げる。曲の最後には、「いとしのレイラ」を思わせるギターフレーズも飛び出した。ハンドマイクを持った原がステージ前に出て「それでは最後に、この曲を聴いてください!」と言った瞬間に、銀テープが一斉に客席に放たれて、「じんじん」へ。ダンサーと共に控えめに踊りつつ歌う原を、ギターの斎藤と小倉が両サイドで盛り立てる。グループサウンズを思わせる曲調とサウンドで派手に盛り上がって本編終了となった。
アンコールでギターを抱えて椅子に腰かけた原は、「みなさん、楽しんでいただけたでしょうか? 13年ぶりで、本当にちゃんとできるのかとても心配だったんですけど、素晴らしいメンバーやみなさんに温かく支えていただいて、なんとかここまで来られました。本当にありがとうございます」との感謝の言葉から、「学生時代の思い出を歌った曲です。『いちょう並木のセレナーデ』」と曲紹介。アコースティック・ギター中心の軽やかなカントリー・アレンジが爽やかで、山本が吹くハーモニカが郷愁を誘う。曲が終わるとキーボードの前に座り、「それでは、もう一度ピアノに戻ったところで、43年前に初めてリード・ボーカルを取った曲を聴いてください」と紹介して歌い出した印象的なコーラスはサザンのアルバム『タイニイ・バブルス』(1980年)で発表した「私はピアノ」。43年前の曲とは思えないほど、レコーディング・バージョンとまったく遜色のない見事な歌唱力、抜群の歌声に驚かされた。間奏から2番に向かうピアノの連打フレーズにも痺れる。まさに珠玉の1曲で、歌い終わると声援が止まなかった。
「今年で、デビューして45年になります。一緒に年を重ねて応援してくださったみなさん、本当にありがとうございます。新しく興味を持ってくださったみなさんも本当にありがとうございます。最近は、大変なこと、心配なことも多いですけど、お互い元気でがんばりましょうね!」と客席に語り掛けると、アルバムのラストナンバー「初恋のメロディ」へ。じっとステージを見つめながら聴き入っている観客の多くが、自分の人生と重ねながら聴いていたのではないだろうか。
「最後にカバー・アルバム『東京タムレ』から聴いてください」と歌い出した曲は、「いつでも夢を」(橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲カバー)。Aメロを歌い終えると、<言っているいる~>と歌いながら舞台袖から桑田佳祐がサプライズ登場。場内は耳をつんざくほど爆発的な大声援と鳴りやまない拍手で、一瞬歌が聴こえなくなったほどだ。間奏では桑田が原に向き合い花束を渡す粋な場面も。「13年ぶり、何やってんだ。毎年やろう!」との桑田の言葉に観客は大喜びだ。並んでデュエットする2人の歌声で温かい空気に包まれてライブは終了となった。
「原 由子の夫でございます」「桑田佳祐の妻です」と息の合った掛け合いを見せる2人に、客席は終始盛り上がりっぱなし。改めてバンドメンバーを紹介した原が「私は?」と紹介を促すと、桑田は「竹内まりやさんです」「南田洋子さんです」とボケて笑わせる。最後はメンバー全員で一列に並んでバンザイすると、2人で「ありがとうございました! バイバーイ!!」とステージを去って行った。仲睦まじい2人のやり取りが微笑ましい、これ以上ない“最幸”なエンディングとなった。
2時間22曲に及んだ13年ぶりのスペシャルライブ。アンコールで「初恋のメロディ」を歌う前に原は、「思い返せば、私の人生はいつも音楽に助けられてきたと思います」と呟いた。そんな彼女の音楽にも、きっと多くの人が助けられてきたのだと思う。チャーミングでしなやかな強さを感じさせる人柄があるからこそ胸に響くのであろう名曲の数々に、心温まる思いがしたライブだった。
Text by 岡本貴之
Photos by 西槇太一
◎セットリスト
【原 由子 スペシャルライブ 2023『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』】
※2023年3月6日・7日、神奈川・鎌倉芸術館
1. 鎌倉物語
2. 涙の天使に微笑みを
3. 少女時代
4. 千の扉~Thousand Doors
5. オモタイキズナ
6. 花咲く旅路
7. 旅情
8. 京都物語
9. 恋は、ご多忙申し上げます
10. ぐでたま行進曲
11. 夜の訪問者
12. ヤバいね愛てえ奴は
13. Good Times~あの空は何を語る
14. あじさいのうた
15. 鎌倉 On The Beach
16. ハートせつなく
17. スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)
18. じんじん
<アンコール>
1. いちょう並木のセレナーデ
2. 私はピアノ
3. 初恋のメロディ
4. いつでも夢を(with桑田佳祐)