※写真はイメージです (GettyImages)

 私も若い頃には悩み多く、自殺を考えたこともあり、精神科でロールシャッハテストなど受けたこともあるが。その都度、「あなたは正常です」と言われたのを思い出す。少なくともそれは自分自身の悩みであり、他とは切り離されたものだった。

 そのあげく、悩みや不安は自分で解決するしかないことも思い知らされたが、今という時代は情報も豊富で、さまざまな生き方を模索するというより、他人や世間と比較して、

「これでなきゃいけない」「この生き方しかない」

 と自分を追い込み、それができないと「他のせいにして自分の死を目立たせよう」「死ぬ時ぐらいは注目されたい」と他人と自分を一緒にして考える。

 それは結局、自分を知らず自分を愛することを知らないから、他への想像力が働かない。きゅうくつな時代だ。もっとおおらかさを身につけるにはどうしたらいいのか。

 それにしても凶器を準備したり、燃えるものを調達したり、ことに及ぶには相当な行動力が必要なはず。その力を他にふりかえることができないのだろうか。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年2月4日号

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