ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)
ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)

「物事って、なんでも『これをやる!』って決めちゃうとラクなんですよ。例えば、明日の朝ごはんは○○を食べると決めちゃえば、もう『明日の朝何を食べようかな』って考えなくて済むじゃないですか。グダグダ考えている時間って、楽しいけど無駄なんです。同じように演劇も、僕の中で『決めた、やる!』という日があった。そこからは、ずっとやり続けましたね」

 演劇だけでは当然食べてはいけず、学生時代から続けていたラジオや雑誌などのライター稼業で生計を立てた。ところが、27~28歳のときに、はたと「演劇一本で行こう」と思い立つ。

「ライター仕事から足を洗ったので、その瞬間にめちゃくちゃ貧乏になりました(笑)。でも、おかげで、『演劇でどうやって食べていけるか』を考えるようになった。大きい仕事が来るのを待つのではなく、『どうやって自分の演劇を人に売るか』。そういう発想に切り替えたんです」

 演出が何なのかもよくわからず、「自分で書いた本だから自分で演出するか」と、当時はそんなノリでやっていた。

「でも、脚本ありきでやっていると、僕が本を書けなくなると、役者は稽古場で待つしかなくなります。一睡もしてないのに一行も書けないような状態になってしまった時期に、たまたま演劇祭のディレクションをやらせてもらうことになって。コンテンポラリーダンサー、落語家、ミュージシャン……いろんな方に集まってもらった。僕は戯曲が書けなくて悩んでいるのに、来てくれる人のほとんどは戯曲を必要としない表現をしていて、『なにか違うやり方があるかもしれないな』と。ニューヨークにも舞台を観に行っていて、そこにも言葉を超えた『誰でもわかりやすくて楽しい』ものがいくらでも転がっていた」

 言葉に頼らない、異文化コミュニケーションのツールとしての演劇を目指し、2002年に、パフォーマンスグループを結成した。

「芝居を観に行っても、覚えているのはセリフじゃないことが多いんです。あるとき、『今日観たの、めちゃくちゃいい舞台だった』と親に話したら、『どんなセリフがあった?』と聞かれて、セリフが全然出てこなかった。照明や音の変化とか、体に伝わってくる振動とか。言葉じゃない要素のほうが、舞台では魅力的に見えることがある」

(菊地陽子 構成/長沢明)

ウォーリー木下(うぉーりー・きのした)/1971年生まれ。東京都出身。大学在学中に劇団☆世界一団(現sunday)を結成。ノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースにおいてエディンバラ演劇祭で五つ星を獲得。2018年から「神戸アートビレッジセンター(KAVC)」舞台芸術プログラム・ディレクター。ノンバーバル、ストレートプレイ、ミュージカル、2.5次元舞台など幅広く演出。

週刊朝日  2022年2月18日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも