豊田とスマホで「ポケモンGO」をやりながら帰る道すがら、高橋はデジタルグリッドの開発メンバーに加わることを決めた。
デジタルグリッドに入社して2カ月。20億円どころか、会社は資金ショートの危機に陥る。だが不思議なことに高橋の口座にはきちんと給料が振り込まれた。近清が事情を説明する。
「エンジニアは会社の生命線。彼らには業務委託への転換も頼まず、正社員としてそれなりの給料を払い続けました」
高橋は給料分以上の仕事をした。社長が豊田に代わった時点で、会社はいったん開発の手を止めた。これまでの開発計画を見た高橋がこう言い出した。
「こんなものに、何でこんなに高いお金を払ってるんですか?」
開発の陣頭指揮を執ってきた豊田が説明する。
「自分で作れないんだから、外の会社に作ってもらわなきゃしょうがないだろ」
「これくらい作れますよ」
「作れるの? どのくらいで?」
「1カ月もあれば」
高橋はAIで電力の需要を精緻に予測するシステムのかなりの部分を内製化することに成功した。これでコストと工期がかなり削減できた。
いずれは「電気代ゼロ」
21年4月、ソニーが愛知県東海市にある牛舎の屋根に設置した太陽光パネルで作った電気を、中部電力の送配電網を介して、約30キロメートル離れたグループ会社のデジタルカメラ製造所に送る試みが始まった。ソニーが使うのはデジタルグリッドの電力取引プラットフォームだ。
ソニーにとっては電力料金が安くなり、確実に再生エネを使えるメリットがある。牛舎の所有者には屋根の賃料が入り、夏場は遮熱効果も期待できる。このケースではソニーが自分で電気を作って自分で使うが、多くの場合はデジタルグリッドが再エネ生産者と需要家を結ぶ。
ソニーのように自力で発電事業を始めるには、官庁や大手電力との気の遠くなるような手続きが必要だ。再生エネなら電力が足りなくなったら別のところから調達できる道筋もつけなくてはならないが、いつ、どれだけ足りなくなるか事前に知るのは難しい。豊田は言う。