段田安則(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
段田安則(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
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 俳優の段田安則さんは、高校生の頃から、京都にある会員制の演劇鑑賞会に入会し、月に一度京都会館で上演される公演を楽しみにしていた。劇団民藝に劇団俳優座に文学座……。1970年代には、いわゆる“新劇”の劇団は、西洋の翻訳劇を上演することが多かった。段田さんが大学生のときに、「これぞ不朽の名作!」という触れ込みで鑑賞したのが、アーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」だった。

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「主人公のウィリーを演じていたのは、劇団民藝の滝沢修さんでした。1950年代前後のアメリカが舞台で、63歳になった元敏腕セールスマンのウィリーは、思うようにセールスの成績も上がらず、2世の社長からは厄介者として扱われます。2人の息子たちは30を過ぎても自立できず、さまざまなことに行き詰まってゆく。老境に差しかかった男性の悲哀を描いた戯曲ですが、正直なところ、話の内容としてはピンとこなかったんです(笑)」

 作品全体というよりも、名優の誉れ高い滝沢さんの肩や背中から溢れる悲壮感と、遠くまでよく通る声が印象に残っているという。あれから45年余り。65歳になった段田さんが、「セールスマンの死」のウィリーを演じることになった。

「国内外の名優と呼ばれる方たちが70年にわたって演じ続けている役ということで、プレッシャーがないといえば嘘になりますが、どんな作品であっても、稽古に入る前に期待と不安はつきものです。今回の舞台のお話をいただいたときも、『そうか、あれをやるのか』と。普段と変わらず、淡々と受け止めていました」

 舞台のみならず映像でも、悲劇的な役から喜劇的な役まで自由自在に、圧倒的なリアリティーを持って演じることができる段田さんは、日本を代表する俳優の一人である。にもかかわらず、インタビューではたびたび「お恥ずかしい」とか、「困ったなぁ」などと言っては口ごもる。照れ屋なのか、謙虚なのか。演じているときはキャラクターの輪郭を鮮やかに描きだすのに、自分のことを話す段田さんの輪郭は全くもってはっきりしない。

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