光石研(みついし・けん)/1961年、福岡県生まれ。16歳のときに映画「博多っ子純情」のオーディションを受け主演に抜擢され俳優デビュー。「あぜ道のダンディ」「デザイナー渋井直人の休日」など200本以上の映画やドラマに出演 (撮影/朝山実、スタイリスト/下山さつき、メイク/山田久美子、撮影協力/フジテレビ)
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「いやあ、本当に優柔不断で、サボリ癖があって。本当にダメな男。それをごまかそうとして、一生懸命働いているんだと思います」

 ご自身のことをどう思いますかと尋ねると自戒の言葉が返ってきた。演じた人物が印象深く見えたのなら「スタッフみなさんのおかげだ」という。

 高校生のときに友だちに誘われて行ったオーディションで映画の主演を射止めてから、俳優業は40年余り。光石研さんは「何もしないでいることが、役作りなのかも」と現場では軽口を言い、人を和ませる。「もちろんシリアスなシーンを撮るときに、ヘラヘラ笑っていたりはしませんけど。その程度です」

 近年は親しみのある「お父さん」的な役柄を演じることが多い。魔がさして過ちを犯してしまう父親を演じた「由宇子の天秤」(春本雄二郎監督)や、勝手気ままに生きる弟とは対照的な兄を演じた「お盆の弟」(大崎章監督)などの映画が印象深い。

 最近刊行した『SOUND TRACK』(PARCO出版、1870円・税込み)は初めての書き下ろしエッセイ集で、味のある挿絵は自分で描いた。ファッション誌「メンズクラブ」や「ポパイ」にハマった10代の頃を思い出すように、膝丈ズボンにスニーカー姿の少年のスケッチも載せた。俳優になろうと上京した頃の愛車だったベスパ(スクーター)の絵もいい。

「絵はとくに勉強したわけでもないんですが、一人っ子だったもので、ひとり遊びのようなことが好きだったんですよね」

 新型コロナの影響で仕事が減り、時間をもてあましたため、スケッチブックに絵を描き始めたところ楽しくなったという。

「文章を書いて公表するのは西日本新聞で昨年、連載させていただいたのがほぼ初めてです」

 光石さんといえば、大杉漣さん、松重豊さんたちと共演したテレビドラマ「バイプレイヤーズ」が頭に浮かぶ。6人の名脇役が、ドラマの監督の指示で共同生活をするさまを描くところからスタートしたシリーズだ。この端緒となった下北沢での映画祭「6人の男たちフィルムズ」の話も載っている。

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