ロシアの脅威と隣り合わせで生きる周辺諸国にとって、情報収集と分析は生命線だ。プーチン大統領の動向については、常に観察と分析を重ねている。ロシアと国境を接し、バルト海に面するラトビアで日本大使を務めたことのある多賀敏行さんは、領土拡張の野心に満ちたプーチンとロシアの「本質」について語る。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶
※記事前編 <<「プーチンにとって核はただの爆弾」 元ラトビア大使が警告するロシアの脅威と核のカード>>から続く
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2014年、クリミア併合の少し前のことだ。
多賀元大使は、大使公邸での夕食会にラトビアの政治家や有識者を招き、情報を交換する機会を持った。
参加者のラトビア人のひとりが、プーチンについてこんな話を持ち出した。
「最近、ロシア国内で変な動きがあり、気になる。プーチンは学校の歴史教科書を書き換えているようだ。レーニンのロシア革命への賛辞が消え、帝政ロシアがいかに偉大であったかについての記述が大幅に増えた」
プーチンがクリミア半島を武力で併合したのは、その数カ月後のことであった。
「振り返れば、この教科書の記述変更の情報は、クリミアへの侵略を予測させるものでした」(多賀元大使)
というのも、実はこのとき、ラトビアにもロシアの手が伸びていたのだ。
「ロシアはクリミア半島に続き、ラトビア奪取の計画を立てていたのです」(多賀元大使)
■ロシア系住民を煽って暴動を勃発
クリミア併合の混乱のなか、多賀元大使は大使として現地で情報を集めていた。するとラトビアの軍事評論家から、こんな情報を耳打ちされた。
「このクリミア半島併合のあと、プーチンは次の目標としてラトビア侵略と奪取を計画していた」
軍事評論家によると、計画は次のようなものだった。
手始めにモスクワは、ラトビアに文化使節団を送る計画を練った。目的は、この使節団を受け入れるラトビア側の組織団体に活動資金を注ぎ込み、ロシア系住民による反ラトビア政府活動の拠点をつくることだ。
「ロシア系住民を煽ってデモや暴動を勃発させる。暴動を止めるラトビア警察によってロシア系住民に死傷者が出ればしめたものです。ロシアは、すぐに軍隊を送り込み事態を鎮圧する。ロシア軍はそのままラトビアに居すわり、ラトビア侵略の拠点とする予定だったのでしょう。幸いにも、ラトビア側で積極的に受け入れようという組織団体が見つからなかったと聞きました」(多賀元大使)