ジャーナリストの田原総一朗氏は、張り詰める世界情勢のなかで、日本の役割を論じる。
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ウクライナ戦争が深刻化する中で、日本で防衛力を強化すべきだという声が高まっている。
自民党の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)は、政府の長期指針である国家安全保障戦略など戦略3文書の改定に向けた提言で、防衛費を国内総生産(GDP)比2%以上に増額するという方針を固めたようだ。現在の安保関連経費の対GDP比は1%ほどなので、それを2倍近くに引き上げようとしているわけである。
また、世界的な影響力を持つフランスの歴史学者のエマニュエル・トッド氏が文藝春秋の5月号で、「日本も核武装すべきだ」と強く求め、同誌では安倍晋三元首相が、「中国・ロシア・北朝鮮からこの国を守るために」「『核共有』の議論から逃げるな」とも提言している。
日本は佐藤栄作内閣以後、歴代内閣は非核三原則、専守防衛論などを日本の安全保障の大原則としてきたのだが、ウクライナ問題の深刻化で、その大原則を打破すべきだという声が強まっているのだ。
現在、国民の多くが危機感を覚えているのは、中国に対してであろう。米国の情報筋は、中国が2024年、ないし25年には、台湾を武力攻撃すると見ている。
そうなれば、米国は中国と戦う。そのとき、日本も中国と戦うべきだと米国は強く要請している、と多くの新聞やテレビは捉えている。
21年、バイデン氏が大統領に就任すると、いきなり、日米首脳会談が行われた。日米の政府幹部を取材すると、バイデン大統領が日本に大変な期待を抱いているためだ、とわかった。
具体的には、緊迫する米中関係についてのようだ。中国が台湾を武力攻撃した場合、日米がどう対応するのかが課題ではあるが、どうやら、そうした事態を生じさせないための役割を、バイデン氏は日本に期待したようなのである。
一体、日本がそのような役割を担えるのか。非核三原則、専守防衛論などを安全保障の大原則としてきた日本には、そのような役割など果たせないとする意見が強いようだが、私はむしろ逆だ。