皆で飲みに行っても、オドオドと先輩たちの酒をつくることに終始していた僕に比べ、彼女はいつも話の中枢にいて、先輩たちとも対等に、楽しそうに語らい、お酒を飲んでいました。

 やがて僕は自転車キンクリートを離れ、その演出助手の彼女と会うこともほとんどなくなりました。

 裕美さんだけでなく、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんや長塚圭史さんといった、日本を代表する演劇人たちから厚い信頼を得ていた演出助手の山田美紀さん。

 先月17日、自身の誕生日の3日前に還らぬ人になりました。

 覚えてることがあります。

 飲み会でも裕美さんに怒られ、先輩たちが席を立ったあとも1人塞ぎ込み、落ち込んでいた僕に、美紀ちゃんがこっそり耳打ちをしてきました。

「でも裕美さん、俳優として、ムチャクチャ二朗さんを買ってると思うよ」

 美紀ちゃんが亡くなったあと、裕美さんのツイッターにこんな文があります。

「人の気持ちに寄り添う能力がとても優れた人だった。自分のことは後回しの人だった」

 あの耳打ちは、僕の気持ちにも、裕美さんの気持ちにも、寄り添ったものだったと思うのです。

 多くの演出家を、演劇人を、作品を支え続けた美紀ちゃんの業績に心からの敬意を。

 あなたに心を支えられ、救われた多くの演劇人のうちの僕も1人です。

 美紀ちゃん、ありがとう。お疲れ様。

 また呑もう。

■佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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