企業取材で訪れたのを機に、末並さんが山谷と緩やかに関わりだしたのは11年。山下さんら福祉を担うキーパーソンたちと出会い、困っている人に何かをしたい人が集まり、連携し、ときに制度を超えて手を差し伸べる空間に魅せられた。山本さんもまた、山谷に包まれて生きている。

「山本さんの物語を軸に山谷の福祉システムも描きたかった。山谷は特別な地域ですが、ここで築かれる疑似家族のような関係は、山本さんがよく言うファミレス、ファミリーがレスの時代の解になるかもしれません」

 その意味では、山谷自体も本書の主人公と言える。末並さんは今も“山本さん通い”を続ける。以前より濃密だという。(中村智志)

週刊朝日  2022年7月8日号