「原神」を運営するミホヨが市場を海外に求め、限りなく精度の高い作品をそこにぶつけたのも、来年から減り始めると言われている中国の人口問題と無関係ではない。クロスプレイを可能にしたことからは、家庭用ゲーム機の利用が根強い日本の、「伝統的なゲームプレーヤー」を取り込もうとしていることが見てとれる。ミホヨは世界市場に打って出るため、実に1億ドルもの研究開発費を「原神」に注いでいる。

■「日本人は日本製のゲームしか遊ばない」と思われていたが…

 オンラインゲームの世界三大市場は「1位中国、2位米国、3位日本」だと言われている。中国でも日本はゲーム大国として知られていたが、中国のゲーム企業は「日本人は日本製のゲームしか遊ばない」と思い込んでいた。

 ところが、ネットイース・ゲームズ(広州市)が2017年にリリースした「荒野行動」が、意外にも日本でヒットしてしまう。「これがきっかけで、中国ゲーム企業の日本市場に対する見方が大きく変わった」(デジタルコンテンツに強い上海のコンサルタント)。ミホヨにとって主戦場は日本、その市場開拓における積極的な動きも、「優れたゲームであれば、日本においても開発国の国籍は問われない」ことに自信を持ったためだと言えるだろう。

 ドイツでの「原神」人気も、若い世代にとって「ゲーム会社の国籍はあまり問われない」ということを示唆した。前出の川瀬さんが「ドコミ」の会場で知り合ったベルギー国籍の男性は、「プレーヤーからすれば、面白いかどうか。国際情勢とゲームに求める面白さは関係ない」と話していたという。

■ゲーム市場はこのまま中国にのまれてしまうのか?

 ちなみに、「このまま放置すれば世界のコンテンツ市場は中国にのまれてしまうのではないか」という筆者の懸念をドイツ在住の川瀬さんに伝えると、次のようなコメントが返ってきた。

「日本のゲームは、ゼルダの伝説、ファイナルファンタジー、ポケットモンスター、スーパーマリオなど、息の長い“シリーズ”ものが強みで、ドイツでもそれへの評価が高いです。中国のゲーム企業は確かに流行をつかむのがうまかったのかもしれませんが、果たしてロングランのヒットを出せるかは未知数です」

 もっとも、こうした質問自体がそもそも“時代遅れ”なのかもしれない。今のゲーミングの世界は10~30代半ばの“若者世代”が主流であり、「中国のゲームだから」と色を付けたがる旧世代とはまったく異なる価値観で受け止めているところがある。

 名画や名曲が政治や国境を越えて評価されるように、ゲームやアニメも国境を越える。若者を中心としたゲーム、アニメ、ファッションも“サブカル”とはいえ、これもまたれっきとした文化に違いないのだ。

姫田 小夏(ひめだ・こなつ)/フリージャーナリスト
東京都出身。フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。1990年代初頭から中国との往来を開始。上海と北京で日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり初代編集長を務める。約15年を上海で過ごしたのち帰国、現在は日中のビジネス環境の変化や中国とアジア周辺国の関わりを独自の視点で取材、著書に『インバウンドの罠』(時事出版)『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)など、近著に『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)がある。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?