東京パラリンピック最終日は9月5日、各クラスのマラソンがあり、女子車いすT54で喜納翼(31)が出場する。AERA2020年4月27日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
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レーサー(3輪の競技用車いす)に乗った喜納翼は上半身をぐっと前に倒し、大地とほぼ平行な姿勢で走り続ける。この姿勢をキープするのは容易ではなく、時々体を起こす選手も多いが、喜納はずっと体を倒したまま。風の抵抗を極限まで抑えたこのフォームで世界に羽ばたく。
2019年秋の大分国際車いすマラソンで、それまでの日本記録を2分17秒更新する1時間35分50秒で2位に入った。同じレースで世界記録を出したマニュエラ・シャー(スイス)との差は8秒だ。
課題のスタートダッシュで遅れずに先頭集団に入れたことが好記録を生んだ。車いすレースでは体重が軽いほうがスピードに乗りやすく、173センチの喜納は他の女子選手より体重が重いためスタートや上り坂では不利だが、底上げしてきた加速力や持久力でトップ集団に食らいついた。弱点は長所にも変わる。腕が長いので車輪を回すハンドリム(漕ぎ手)を下まで漕ぎ続け、地面に力を伝えることができる。下り坂では逆に体重が有利に働き、時速60キロも記録したスピードで勢いに乗り、世界女王に迫った。
フルマラソンを始めて3年あまり。喜納を車いす陸上の世界へ導いた下地隆之コーチは「レースのたびに予想を超えてくる」と成長に目を見張る。喜納は言う。
「これまで背中も見えなかったトップの選手をとらえることができた。あとは8秒の差をどう縮めていけるか。東京パラリンピックコースの最後にある長い上り坂をしっかり走り切る力をつけたい」
(編集部・深澤友紀)
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■パラ陸上(車いす)
3輪の「レーサー」と呼ばれる競技用車いすを用いる。カーブを曲がる際にはトラックレバーを叩いて前輪の向きを変える。東京パラリンピックでは脳性まひの車いすT33、34と脳性まひ以外の車いすT51~54のクラスが実施される(数字が小さい方がより障害が重い)。T54クラスで実施されるマラソンでは、下り坂で時速50~60キロのスピードが出ることもある。
※AERA2020年4月27日号に掲載