春日山の近くに宿泊し、早朝や夜はヘッドランプをつけて森の中を歩いた。
「春だとたまに地元の人と出会ったりしますけれど、冬はほとんど誰にも会わないです」
撮影はすべて三脚を使わない手持ち撮影。
「三脚を使うと、自然な感じで撮れない、というか、どこか考えて撮ってしまう。動物でも草木でも、何か、あっと思ったら撮る。そういう感じです」
■あるがままに生きている感じ
夜の撮影でもストロボは使わない。
「ヘッドライトの明かりだけ。もしくは、光を当てなくてすむように、なるべく満月の夜に撮るようにしています。動物がなるべくまぶしくないように、ということもありますけど、できるだけ自然のままの感じで撮りたい」
撮影感度を上げて撮るため、その写りは「けっこうギリギリな感じ」となる。
「でも、ちょっと画質が悪くなったとしても、『本質』が写っていればいい」と言う。
その「本質」とは何か?
「そこで木々や動物たちといっしょに時間を過ごしたときに感じる、生きている力みたいなもの。なかなか言葉で表すのは難しいですけれど」
目の前に開けた美しい風景を撮るのではなく、「その中に入っていって、一本一本の草木があるがままに生きている感じを撮りたい」。
■ネコというよりネコ科の野生動物
越沼さんは専門学校や大学などで専門的に写真を学んだことはない。
「写真を撮り始めたのは十数年前。30歳くらいのときです。最初は花やネコを写していました。そのころ入院した祖母に春の花を見せてあげたくて」。
ネコの写真は、「実家に帰ったときに自然を撮っていると、そのなかにネコがいて、そんな感じで撮り始めた」。
そのネコが今回の写真展のもう一つのテーマとなっているのだが、そこに写っているのはネコというより、ネコ科の野生動物、という印象を強く受ける。
「撮り始めたころから『よくあるネコの写真とは違うね』、みたいなことは言われていました。小さいころから感じていたのは、かわいらしいというより、野性的なネコだったし、花も人間のための観賞用とはあまり思ったことはなくて、私にとっては、『生きている』という存在。なので、そんなふうに撮ってきた」
聞くと、越沼さんの実家の周辺で飼われているネコは、家にいることがほとんどないという。
「野良猫と変わらないくらいずっと外にいる。自分で何かを捕って食べて、夜しか帰って来なかったり、長い場合は何カ月も帰って来なかったりする」