「バブル崩壊後、日本は、経済の低迷に苦しみながらも、デフレの弊害に対する問題意識が薄く、財政の均衡や健全化にこだわるあまり、金融緩和や積極財政を打ち出しにくい状況が続いていました。しかし、安倍氏はデフレの中で財政を引き締める政策はあり得ず、より一層大胆な金融緩和が必要だと一貫して考えていた」
実は首相辞任後も、本田氏のもとには経済や金融についての相談があり、熱心に質問されることも多かったという。
「夜中に電話がかかってきて『これってどういうこと?』と、経済や金利政策について何回も聞かれることもありました。わかりやすい資料のコピーや本をお持ちし、説明に上がったこともあります。直近では参院選告示直前の6月半ばにもお会いしました。特に最近は円安や物価の動きを気にしているようで、現在の状況でなぜ円安がよいのか、いま金利を引き上げてはなぜいけないのかを、どう説明すれば国民に伝わるか、考えを巡らせていたようです」
5月には財政健全化目標を維持すべきかどうかを巡ってさや当てが行われた自民党内の議論でも、安倍氏らは経済対策の手を緩めることがないように主張したと伝えられている。
だが、アベノミクスには異論や批判があるのも確かだ。労働人口が増えたものの、給料が上がらないままでは消費は振るわない。積極財政で財政赤字は膨らみ、国債の発行額も増えた。新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻などで経済の先行きはより不透明になり、財政健全化への道のりも険しい。本田氏が話す。
「経済が正常化しなければ、金融政策の正常化も財政の健全化もあり得ません。優先すべきは、デフレからの脱却と経済の回復であって、順番を間違えてはいけない。やるべき時にやるべき対策を取らなかったことが、デフレの長期化を招いてしまった。さらに議論を尽くし、安倍氏の遺志を引き継いでいかなければならない」