思わぬ誘いだった。これをきっかけに蔦屋書店の入社試験を受け、2017年から六本松店で「旅のコンシェルジュ」として働き始めた。

 せっかく手にした、安定した仕事。しかも「旅に関する本」に囲まれた職場は、小説家志望だった森さんにしてみれば、満ち足りた環境であるはずだ。普通だったら、ここで落ち着くのだろう。

「恵まれているとは思いますよ。でもね……まだ満足できてなかったんです」

 安定した仕事を得て日常をつかんだことで、「日常の何が嫌なのか」「非日常の旅の何がいいのか」、かえってそういうものを見つめ直す時間を得たのだという。

 結果的に、森さんはこれまでとは違った形で旅に出ることにした。2017年、わずか15日間で地球をまわる「世界一周」に挑戦。アメリカからドミニカ、ドイツ、ポルトガル、モロッコ、イタリア、サンマリノ、キプロス、イラクを経て、アジアに戻るという弾丸旅行。サラリーマンという制約の中で工夫しながら旅をすることに、面白みを見出すことができた。

 その後も勤め人をしながら、2日休みがとれればアジアへ。5 日休みがとれればヨーロッパやオセアニアへ旅に出た。どんなに短くても毎回テーマを設定して旅をした。フィリピンのタムロックへゲテモノ料理を求める旅、きれいなビーチを探してタイの島をめぐる旅……といった具合だ。

 それらの旅の様子は、毎月開催の店舗イベント「ロクマルトリップ」で発表するなどし、来客を相手に還元するようになった「世界一周」に必要な知識を伝授する実践講座を開いたほか、「モザンビークへの旅」と題したときには、モザンビークを代表するミュージシャンをゲストに招き、生演奏などもおこなった。

「旅のコンシェルジュ」として来客の相談に乗る(撮影/丸山ゴンザレス)
「旅のコンシェルジュ」として来客の相談に乗る(撮影/丸山ゴンザレス)

 「旅のコンシェルジュ」である森さんのもとには、日々さまざまな相談が寄せられる。アジアからアフリカ、長期短期、世界一周、どんな旅でも相談にのった。時には「世界で一番大きなクワガタを捕まえたい」といったマニアックな相談も受ける。

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