旅の途上で出会った人たちから、ガイドブックに載っていないような旅の名所を教えてもらうことが何度もあったという。地球のいたるところに自分の知らない場所が存在することに、魅力を感じてしまった森さん。その結果、「全然旅をし足りない」と思った。“旅という病”にかかってしまったのだ。

 この“旅という病”は熱病のようなもので、誰かが冷ましてくれることもないし、治療法もない。あるとしたら旅から遠ざかり、熱が冷めるまで待つしかない。

 初めての世界一周を終えた翌年から、約2年をかけて2周目の世界一周を敢行した。

 旅の拠点にするためにロンドンで家を借り、地理的に近い西アフリカや北アフリカなどの場所を次々と制覇していった。こうして2周目を終えてもなお、森さんは「旅という病」を患ったままだった。

 すでに40代になろうとしていたが、まるで旅にはまった若者のように、アルバイトでお金を貯め、インド南部やパキスタン、中国など海外に出る生活を続けていた。

「仕事は、翻訳から販売業、時には肉体労働まで、やれるものはなんでもやっていたという感じでしたが、正直、先のことは考えていませんでしたね」

 とはいえ、繰り返される旅と労働の日々は永遠に続くはずはない。いよいよ森さんの“旅という病”がさめる時期が訪れた。

 その時期にインド旅の途中、疲労で倒れて病院へ運ばれてしまったそうだ。所持金分の点滴だけ打たれてあとは病院の玄関に放置されて一晩過ごした。この日を境に漠然と旅にくぎりをつけようかと思い始めた。
といっても別に旅が嫌いになったわけではなく、空っぽの器にゆっくりと注がれた水が徐々に溜まって少しずつ漏れ出していくような感じだった。
器から漏れ出した感情を「そろそろ旅はいいかな」と、飲みの席で学生時代の友人に漏らした。隣にいたその友人は南原さんという方で、蔦屋書店の館長だった。

「だったら少し腰を落ち着けて、旅の本を扱うコンシェルジュになってみない?」

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旅の達人が挑む「15日間で世界一周」