2017年6月に決定版の全集が完結し、未発表の資料がなくなったのを機に、文豪<谷崎潤一郎>誕生の道筋を跡づけたいとの思いで本書を書きはじめたという著者。それが期せずして谷崎の「性慾史」の記述となり、予想もしていなかった書名に結びついてしまったという。それも道理で、第1作『刺青』から晩年の『鍵』『瘋癲老人日記』等に至るまで、谷崎のビブリオグラフィはほぼ全期間にわたってなんらかの形で「性慾」に色づけられている。

 実生活と執筆の両面において、谷崎が何に影響を受け、かしずくべき「永遠女性」の観念をいかにして形成していったのか、その過程を丹念に検証した本書は、人間にとって<性>とは何かという深遠な問いかけをも内包している。谷崎文学を読み解く重大なキーとなる未完の草稿「恋愛と色情」を巻末に全文収録。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年12月18日号