うつ病と診断され、多種の向精神薬や睡眠薬を常用していた大宅壮一ノンフィクション賞作家が、自らの意思で断薬に至るまでの凄絶な記録。
6年間服薬を続けているのにかえって症状が悪化し、あげく「統合失調症」と診断が改められるに至ったことに疑問を感じた著者は、減薬や断薬を勧める数少ない医師らの指南を受けながら、段階的に薬からの影響を断つ決意をする。離脱症状に苦しめられる著者が見いだしたのは、国民皆保険制度と医療費削減を目指す国の政策との狭間で、生き残りを期していびつなものになっていく日本の医療機関のあり方だった。
断薬の過程で実行した湯治、強酸性の熱湯に浸かる今はなき草津の「時間湯」をめぐるくだりさえ秀逸なルポになっている点に、物書き魂を感じる。薬漬けになる前に読んでおきたい本。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2020年7月3日号