90年代に入って、バブルがはじけて日本経済が大不況に陥って以後、日本の多くの経営者たちは失敗を恐れて、新しいビジネスに挑戦しなくなってしまった。米国など、他国が開発したものをいかに安く生産するかという、いわばコストカットに全力を注ぐことになってしまったのである。これでは経済は成長しようがない。
しかも、日本企業のビジネスパーソンたちは企業内で地位を高めることが大目標となっている。そのためにはともかく経営者など上司によく思われなくてはならない。
前々回にも記したが、数年前に東芝が粉飾決算を7年間続ける、という事件が起きた。とんでもない事件で、中堅以上の社員ならば、粉飾とわかっていたはずである。
だが、どの社員も粉飾だと指摘しなかった。これが、東芝という企業が理念を失ったきっかけになった。中堅以上の社員たちは、粉飾を指摘しなければいけないとはわかっていたが、それを指摘すると左遷されるので言えなかった、という。こうした正論を言えない社員がどの企業でも多数を占めているのではないか。企業の根本的な体質を大きく改革しないと、日本経済は危機から脱出できない。
かつてとは違い、今、日本赤軍が引き起こしたような陰惨な事件は頻発していない。ただ、安寧が続く一方で、日本経済は安定とは程遠いのである。先の見えない日本に暗然たる思いを抱いている。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年7月15日号