世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックを写真を交えて紹介する。
この記事の写真をすべて見る■スラム街の先に広がるビル群
韓国映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞最多4部門を受賞したことで、にわかに注目が集まった韓国の格差社会と住宅事情。私も作品を見たが、非常に興味深かった。
せっかくなので韓国の格差について、私なりに補足情報をお届けしたい。あるとき、韓国にスラムがあると聞き、江南(カンナム)を訪ねた。江南とは、首都・ソウルの中央を横切る川・漢江(ハンガン)より南側の地域で、近年は発展が著しいとされるエリアである。
スラムは、街の外れの丘陵地帯のふもとにある。トタンの屋根で作られた掘っ立て小屋が軒を連ねて集落群を形成していた。このスラムのある地区からは遠くに近代的なビル群が立ち並ぶのが見える。江南の発展から取り残された場所と呼ぶのにピッタリだった。
集落内を歩き回ると、壁がマットレスの小屋などがあった。周囲の地面は舗装されていない。トイレは家ごとに設置されておらず、エリアごとに管理された公衆トイレなどを使っているようだ。
このエリアは経済発展に伴う立ち退きの果てに、ほかの地区から住人たちが流れ着いて、自然発生的にできあがったという。ある意味では、ソウルの発展の闇の部分の象徴とも言うべき場所だ。実際に目の当たりにすると「こんな場所がソウルにあるのか」と衝撃を受ける。だが、それ以上に驚いたのは、このエリアの住人たちが、必ずしも貧困層というわけではないということである。その証拠に、住宅前に高級車が駐車されていたりする。
高級車を買っても、家は建て替えない。そんな人もいるのだろう。住んでいる場所だけでは、その世帯の経済水準がどの程度なのかはわからないということだ。
断っておくが、困窮して仕方なくこのエリアに暮らしている人もいるはずである。彼らにとっては、この場所で生きるしかないのである。しかし、このエリアは数年のうちに取り壊されてしまうという話もある。彼らはこの場所以外に、暮らすところはあるのだろうか。
貧富の格差が拡大し、劣悪な住環境を強いられる人が増えているのは韓国だけではない。事態が深刻化するまでは、読者にとってこの記事は隣の国のこととして片付けられてしまうだろう。だが、同じことが日本でも起きつつあるのだ。(文/丸山ゴンザレス)