「標準レンズ」と言われる50ミリではどのような撮影が可能なのか。風景写真やポートレートなど、各分野の写真家がポイントを解説する。
「ボケが美しいねえ」じゃない!
50ミリはもともと好きでした。いまはソニーのPlanar T* FE 50ミリメートル F1.4 ZAを使っています。
このレンズと中望遠のFE 90ミリメートル F2.8 Macro G OSS、広角ズームのFE 12-24ミリメートル F4 Gの3本を持っていくのですが、だいたい最初にポンとつけて撮り始めるのは50ミリ。そこから必要があれば、90ミリなり広角ズームに切り替えて、という具合なので、最初から最後まで一日中50ミリをつけっぱなし、ということもよくあります。
でも、写真を始めたころは50ミリでは自分がいいと思う感じには撮れませんでした。
28ミリとか広角レンズでずっと寄って、ゆがみが生まれることが楽しかった。写りをドラマチックにしてくれるというか、レンズの能力に頼っていたところがあったと思うんです。
でも、その感覚も年をとるにつれて変わっていって、30代後半くらいから「50ミリがかっこいいな」、という感覚になりました。ここ十数年は50ミリに落ちついていますね。
50ミリはレンズに撮らされていないというか、自分の手に収まるというか、すごく違和感がないんです。
自分はこうは見ていなかったけれど、レンズがこういう感じを撮らせてくれたとか、そういうズレは好きじゃない。
撮っているときの感覚と、仕上がりの感覚はなるべくいっしょにしたい。そういう感じでレンズを選ぶと50ミリなんです。
自分の目としても標準に近くて、被写体をしっかりと見られる気がするんです。
「標準」というのは、ひとつの言葉ですけれど、自分にとっての50ミリ標準レンズはほんとうに「標準」という感じなんですね。
人物の場合はふつう、f4とかf5.6くらいの絞りで撮っています。適当にボケている感じで違和感がない。
人物って、絞り開放で写すと、「ザ・ポートレート」みたいな、お手本写真みたいな感じになりすぎて。もちろん、それはそれでひとつの型として、美しいなと認めているんですけれど、「ボケが美しいねえ」とか、そういうことを言ってもらうための写真じゃないような感じにしたいから、あまり絞り開放で撮ることはありません。
50ミリには派手さはないけれど、そのぶん、自分が試されるというか、鍛えられるというか、写真を学ばせてもらっている。そんな気がします。
(写真・文/藤代冥砂)
※『アサヒカメラ』2020年1月号より抜粋。本誌では「スナップ写真」や「鉄道写真」も含め、4分野の撮り方をプロの写真家が解説している。