
本番を前にした演者が、最後に己と向き合う場。荒ぶる心を静めたり、逆に気持ちを昂(たか)ぶらせていく。極めた者しか入れない聖域はどういう場所なのか。
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新宿末廣亭の楽屋は、高座(舞台)のすぐ隣にある。そのため古今亭菊之丞さんは、
「一番緊張する寄席です。高座での噺が、楽屋の大看板(大御所落語家)に全部聞かれるんですから」
昔は大看板たちが楽屋の火鉢を囲み、時に酒を飲みながら、大声で話をしていたという。
「高座にまで、『下手くそ』『こりゃひどいわ』という声が聞こえたりして。気を取られずにお客さんに集中しないといけません。鍛えられますよ」
と厳しい環境に感謝する。

気象予報士の崎濱綾子さんは、地元放送局のお天気おねえさん時代に一念発起。合格率5%という難関の試験に6度目の挑戦で合格し、本番前に予報を作る喜びを感じている。アイドルグループ「まねきケチャ」の中川美優さんは、デビュー前に新宿LOFTでバンドのライブを何度も見た。そのためLOFTの楽屋に入り、壁と天井の落書きを見たときに、ここで歌う重みを実感。最近になって「そろそろ私も天井に書きたい」という気持ちが出てきた。
楽屋。それは選ばれし者が自らの来し方行く末を想う場である。