国立大学を卒業したものの就職先が見つからない著者が迷い込んだのは、路上生活者たちが集う大阪市西成区の「あいりん地区」。78日間の滞在記録をまとめたのが本書だ。

 まず、寮に住み込みでビルの解体に挑むが、そこは常に死と隣り合わせ。おまけに、同僚はギャンブルかクスリに狂っている人ばかり。これは耐えられないと、安宿の清掃業務に就けば、部屋に注射器が転がっていても同僚の誰も驚かない日常が広がる。滞在中に会った人の6割が覚醒剤経験者、4割が元ヤクザというから、まさに「異界」と呼ぶにふさわしい。

 著者はあいりん地区の住人に違和感を抱き続けるが、滞在するにつれ、魅力にも気づく。その心境の変化も興味深い。アンダーグラウンドに染まりきっていない等身大の視線が心地よい。

週刊朝日  2018年11月23日号