表紙には銀座のバー「ルパン」で脚を組む太宰治の有名な写真。バーで偶然出会った林忠彦は太宰を撮ろうと便所のドアを開け、便器にまたがりながら夢中で撮影したという。

 本書は太宰や織田作之助、坂口安吾など無頼派作家の写真で知られる林の生誕100周年を記念した一冊だ。

 戦後の混乱期から高度経済成長、そしてバブルまで。昭和の世相をとらえたカットから文化人の肖像、風景写真まで。撮影の一瞬に対象物の歴史を感じさせる物語を閉じ込めている。

 全体を通じて不思議なのは、戦後すぐの食べるのにも困る時代の写真も含めて、どの被写体も生気に満ちていることだ。あらゆるものを一切のためらいもなく、写し込もうとする林の貪欲な姿勢が一枚一枚に投影されている。

週刊朝日  2018年5月25日号