『365日のシンプルライフ』という映画をご存じでしょうか? 都会のひとり暮らしを謳歌する青年が、ふとしたきっかけである実験をするのです。その内容とは、自分の所有している大量のモノを「すべて倉庫にあずけ」「新しくモノは買わずに」「毎日1個だけとり戻す」というルールで1年間暮らしてみる、というもの! 舞台となったフィンランドでは、刺激を受けて真似する若者が続出、日本でも公開され話題となりました。最小限の持ち物で暮らす人を「ミニマリスト」などと呼びますが…それはいったいどんな人たち? 何をどうすれば、そんなにスッキリした部屋で暮らせるようになるのでしょうか。
この記事の写真をすべて見る『365日のシンプルライフ』(2013年)の実験モノがたりとは?
26才、男性、独身。フィンランドのヘルシンキ在住。モノが大好き。そんな主人公ペトリさんは、失恋をきっかけに何もかもがイヤになり、ふと持ち物を断捨離、どころか「リセット」してしまおうと思いつきます。<人生で大切なもの>を見つけ出すために…。その実験のルールは、4つ。
・自分の持ちモノ全てを倉庫にあずける
・1日1個だけ、倉庫から持ってくる
・1年間、続ける
・1年間、食品類以外は何も買わない
第1日め、倉庫に向かって、雪の残る舗道を全裸で走るペトリさん!! 深夜とはいえ、さすがに拾った新聞紙で股間をガードしています。そして最初に取り戻したものは、もちろんパンツ…ではなくて長いオーバーコート。丸めて枕にしてみましたが、やっぱり体が寒いので、毛布がわりにくるまって寝たのでした…。こうして、自分にとっての優先順位がだんだんわかっていく、という実体験をもとにした作品です。
ただし、「シンプルライフの方法」をくわしく伝授してくれるわけでも、「モノは少ない方がいいぞ〜」と、とくに推奨しているわけでもありません。全体を通して、ほのぼのとしたゆるさ(実験経過も含め)が魅力の映画なのです。なのに、公開後なぜか無性に持ち物を減らしたくなる人が続出! もし、日本にいてこの実験をするとしたら、どの順番で何を取り戻しますか? 「部屋がごちゃごちゃ。なんだか疲れがとれない」「掃除や探し物のたびイライラする」「それなりにおしゃれな暮らしをしているのに、心が満たされない」など、現在モノとの関係にモヤモヤを感じていらっしゃる方がご覧になると、何かのヒントが得られるかも?(DVDレンタルもされています)
生活に必要なモノは100個くらいだとわかった。 その次の100個は…
いま日本は、空前の「片付け」ブーム! ガラクタを手放して大切なモノだけを残し、少ない持ち物で暮らそうとする人が増えているのだそうです。というのも、時代とともに「豊かさ」や「幸福感」の条件が変化していて、いまは所有するモノの数=豊かさではなくなっているから…むしろ、多すぎる持ち物(ガラクタ)は人を消耗させ、やる気や体力を奪ってどんよりと運気もダウン…「貧しさ」や「不幸」すら連れてくることが、じわじわと知られてきたからなのですね。
さて、裸でスタートしたペトリさんは、最初の7つを手にするくらいまでは、お祭りのように幸福感を味わいます。人類の文明の歴史が進んでいくように、服を身にまとい道具を使い、満ち足りたあとは、何を取り出すのか迷うようになるのです。
「生活に必要なモノは100個くらいだとわかった。その次の100個は、生活を楽しむため」。携帯電話も車も、数ヶ月ナシ状態を経て「なくても大丈夫」なことが証明されたので持ち帰ろう、と思うのです。ペトリさんには外見上の変化もとくになく、部屋は、実験が進むにつれて日ごとに元の状態に戻りつつありました。けれども、戻ってきたモノと持ち主との関係は、前とはまったく変わっていたのです。「所有とは責任であり、モノは重荷になる。どんな重荷を背負うか、僕は自分で決める」と穏やかに笑うペトリさん…えっ、な、なんだか急にカッコいいかも!?
ミニマリストの部屋がカッコよく見えるのはなぜなのでしょうか
辰巳渚さんの著書『ミニマリストという生き方』では、タレントの小島よしおさん(海パン姿でブレイクしましたね☆)のお部屋も紹介されています。ベッドとトレーニングマシン以外のモノは、ほとんどなし。引っ越しを機に持ち物を大量に処分し、それからはずっとモノの少ない生活のようです。頭の中で考えていること(たとえばトレーニングや英会話)はすぐに実践、やりたいと思ったことをどんどん行動に移していくようになったら、部屋もすっきりしていったのだとか。たしかに身軽だと、すぐ行動できそう…ミニマリストの部屋がカッコよく見えるのは、「自分が選びとった大切なもの以外は手放す」という潔さが表れているからかもしれませんね。辰巳さんによると、ミニマリストが求める豊かさや幸せとは、
毎日が笑顔とともにあり、
ゆったりとした時間の中で、
家族や大切な仲間に愛情を持ち、
感謝しながら生きる。
現状に満たされて、
ストレスを感じないような自分であり続ける
という (江戸時代の庶民のような)暮らしにあるそうです。そして、少ないモノで暮らしているからといって決してガマンしているわけではなく、思いっきり楽しむために時間やエネルギーを空けておく、といったスタンスのようです。自分の本当の望みを知っていて、それを探しに行けるように旅行荷物を軽くしておく、という感じでしょうか。ミニマリストは禁欲的どころか、己の欲望にもっとも忠実な人たちなのかもしれませんね!
モノが少ないと、紛れて捜しまわることもないし、何もどけずにサッとお掃除できてとってもラクちんなんですって♪ でもバンバン捨てる自信がない…そんな方こそ、映画の実験は、挑戦しやすい方法なのかもしれません。「捨てる」のではなく「選びとる」…何もない空間に自分で1つずつ加えていく行為は、捨てようと思うと心が痛んで作業がなかなか進まない方・捨て方がわからないという方にもおすすめです。
とはいえ、片付けるために持ち物を倉庫にあずけるなんて、ハードルが高すぎますよね…そこで、まずはクローゼットだけを完全に空にして1枚ずつ着たい服を戻していったり、ひとつの収納家具ごと、ひと部屋ごとに「実験」してみるのはいかがでしょうか。自分の優先順位がはっきりしたら、下位のガラクタはすんなり処分できるかもしれません。お正月休みには、モノと向き合って、身軽な新年をスタートさせてみませんか?
<参考文献>
『ミニマリストという生き方』辰巳渚(宝島社)