TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。アカデミー賞を獲った日本人プロデューサー・吉崎道代について語る。
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「幼少時代は日本の果て、大分県の国東半島にあるどんづまりの村で育った」
この3月に日本映画ペンクラブ功労賞受賞予定の吉崎道代の自伝にある文章である(『嵐を呼ぶ女』)。映画プロデューサーの吉崎はロンドンに居を構え、『クライング・ゲーム』『ハワーズ・エンド』でアカデミー賞4部門を獲得、どちらも心の奥に刺さる名作だ。
彼女に会ったのは昨年夏。搭乗前に体調を壊したと車椅子で帰国。でも、新宿のホテルを訪ねるとすこぶる元気で、映画好きならたまらない話題がポンポン飛び出した。
「オスカーは華麗なだけじゃない。ダークな面も抱えている。金と名誉が絡む熾烈(しれつ)な闘争。だから世界にパワーを持つ。私はそのオスカーが夢だった」「ハリウッドとモンローは愛と憎しみに満ちた一方通行の関係。ハリウッドは最後まで彼女を正妻にしなかった」「大島渚の『愛のコリーダ』はバチカンへの挑戦状だとイタリアのプロデューサーが言った。そう、セックスは人間の根源。謳歌(おうか)だわ」……エピソードの合間に、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマ・トンプソン、クリント・イーストウッド、エリア・カザン、アラン・ドロン、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノの名前が挿入される。
「どんづまりの村」の小学校講堂で観た『類猿人ターザン』のジョニー・ワイズミュラーの肉体に魅せられ、上京すると『欲望という名の電車』でマーロン・ブランドに惚(ほ)れ込み一夜を共にしたいと願い(中学生で!)、受けた大学は全て落ち、19歳でイタリアに渡り映画の世界に。「勉強ができない。美人でもない。だったら外国だと。マーロンはアメリカ人だったけど私の中ではアメリカもイタリアも同じだった」