あまり知られていないが、防衛省と自衛隊は同一組織である。行政組織としての意味で「防衛省」、武力を伴う実行組織としての意味で「自衛隊」と、呼び名を区別しているだけのことだ。
防衛省と自衛隊。両者は対等な関係であるにもかかわらず、あたかも防衛省が「本社」、自衛隊が「子会社」と思われがちだ。世間一般の人はもとより、当の防衛省・自衛隊の職員たちがそう認識するようになったのは、ひとえにキャリア官僚への恐れからだ。
ある防衛省キャリアは、自分たちのことを「警備会社の企画営業職のようなもの」と話す。となれば、制服組はさしずめ「ガードマン」といったところだ。
だが、現場が営業に口を挟まぬ民間の警備会社と違い、防衛省・自衛隊の制服組は、陸・海・空の実行組織、それぞれの思惑から本社の背広組を突き上げることもある。
3自衛隊の中で唯一、旧軍の正式な伝統継承者を自任する海上自衛隊は、旧海軍同様、政治に口を挟むことをよしとしない。だから防衛省内での覇権争いでは陸・空に比して割を食いがちだ。
対して、戦後発足した航空自衛隊は旧軍とのしがらみがない組織で、何物をも恐れず発言する気風を持つといわれている。これが省内外を巻き込んでのトラブルとなることもしばしばだ。
他方、戦前の旧陸軍からの伝統継承はないとしながらも、しっかりと旧陸軍のDNAを受け継いでいるのが陸上自衛隊である。旧陸軍ばりの「けんか上手」は、海・空自衛隊のみならず、本省ですらも一目置くくらいだ。
防衛省・自衛隊では、本省と統陸海空の4幕僚監部、防衛装備庁も含めた覇権争いが、日々繰り広げられている。