カミヤト凸凹保育園+plus(photo 小暮誠)
カミヤト凸凹保育園+plus(photo 小暮誠)

 巷で話題の〇〇メソッドや、早期教育としての英語教育、そして運動会・お遊戯会の類いは「やらない」と決めている。多くの場合、それは「大人たちが望むこと」であるからだ。そうではなく、人間らしく生きること、子どもの目に映るもの、感じるものを最優先した上で、後方支援するのが自分たちの役割だと考えている。

 馬場さんを見つけると子どもたちが「ばばちゃん、ばばちゃん」と親しげに寄ってくる。保育園でも、春日台センターセンターでも、馬場さんは職員一人ひとりの名前を呼びながら声をかける。介護施設の利用者の名前まで把握しているから驚きだ。そんな経営者が世の中にどれだけいるだろうか。

■ローカルから土壌を

「異なり」のある人たちと幼少期からかかわっていくこと。その体験を馬場さんが重要視するようになったのは、16年に相模原市の津久井やまゆり園で起きた殺傷事件も関係している。「生産性がない人間は生きる価値がない」と言った元職員が、知的障害者施設で入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた事件だ。

 ミノワホームとやまゆり園は、車で20分程度の距離にある。もし犯人がミノワホームに履歴書を持ってきていたら採用していたかもしれない、と考えるほど、身近な出来事だった。

 事件はミノワホームの壁を取り払う計画の最中に起きた。世間ではセキュリティーを強化するべきという議論が横行したが、馬場さんの考え方は逆だった。

「彼の周りに障害のある人がいて、一緒に過ごす経験の積み重ねがあったら、彼は『障害者はいなくなったほうがいい』と言ったでしょうか」

 ホームでは、壁をなくして庭を作った結果、近隣の保育園の子たちが遊びに来るようになるなど、地域から見守られていると感じることも増えたという。

「インクルーシブやダイバーシティーの言葉だけが先走って、社会の土壌はまだできてない」

と見ている馬場さん。ローカルからそうした土壌を作っていく。そのためにも福祉に向けられる“お涙頂戴”的な空気は払拭したい。それを解決してくれるのはデザインの力だ。

 一体なぜこんなにおしゃれな場所なのか。すべて納得がいく思いがした。(編集部・高橋有紀)

AERA 2023年1月16日号