兄の不死川実弥(鬼滅の刃「柱稽古編」ティザービジュアルより)
兄の不死川実弥(鬼滅の刃「柱稽古編」ティザービジュアルより)

不死川兄弟の不幸

 実弥と玄弥は、不死川家の“生き残り”である。2人が憎んでいた父はもめ事の果てに死んでおり、優しかった母は不幸なことに鬼にされている。そして、その母が、彼らの弟妹を喰い殺した。実弥は玄弥たちを守るために、鬼化した母を殺さなくてはならなかった。動揺した玄弥は、思わず兄に「人殺し」と言ってしまう。

酷いこと言って ごめん 兄ちゃん
(不死川玄弥/13巻・第115話「柱に」)

 その後、1人で鬼狩りの剣士になってしまった実弥を追いかけて、玄弥は鬼殺隊に入隊する。兄に会うために、兄に謝るために。しかし、仲の良かったこの兄弟の道は分たれていた。実弥は玄弥が鬼と戦うことを絶対に許そうとはしない。

“たった1人の兄”を守りたい

 そう、玄弥が鬼殺隊で闘う最も大きな理由は、実弥の存在なのだ。鬼殺隊入隊後、どうやら玄弥は何度か実弥と会話を試みていたようだ。柱稽古の時にも、実弥から「馴れ馴れしく話しかけてんじゃァねぇぞ」(15巻・第133話)と叱られ、炭治郎を巻き込んでの騒動になっている。それがもとで、悲鳴嶼から謹慎を言い渡されても、何度突き放されても、まるで小さな子どものように兄の後を追い続けていた。自分も”兄ちゃん”を守りたい、手助けしたいという一心からだった。だからこそ、玄弥は無限城に“落下”してからも、兄を心配して、ずっと探し続ける。

何なんだここは… 鬼の根城か? 他のみんなは?
兄貴…兄貴も無事でいてくれ
(不死川玄弥/16巻・第140話「決戦の火蓋を切る」)

 風柱・不死川実弥は、柱の中でも屈指の実力者である。それを「呼吸」すら使えない、弟の玄弥が心配するのは、本来ならば“おかしなこと”だ。しかし、この後も、玄弥はひたすらに実弥の無事を願う。兄よりも弱く幼いが、それでも“強い風柱”を守りたいと思い続ける。

つらい…思いを…  たくさん…した…兄ちゃん…は…
幸せに…なって…欲しい…
死なないで…欲しい…
(不死川玄弥/21巻・第179話「兄を想い弟を想い」)

 そして、玄弥は「ごめん」という兄への言葉を心の中で何度もくり返す。しかし、この“弱い”弟は、この後の戦闘で、兄を救い、戦局をくつがえすような突破口を開く。

 玄弥は自分のことを兄よりも劣っていると考えているようだが、この2人は優しく強く、よく似ている。不死川兄弟の本心が言葉になって紡がれるその瞬間を、無限城編の続編で見届けたい。

《新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、不死川兄弟にまつわるコラムと、彼らの前に立ちふさがる上弦の壱・黒死牟についての章がある。無限城編の対戦の謎の解明のために、本書を参照してもらいたい》

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