
日本男子フィギュア界のパイオニアの高橋大輔さんが映画に初めて出演する。2度の現役引退を経て、アイスショーで活躍する中で見つけた新たな表現の道とは──? AERA 2025年8月25日号より。
【写真】“俳優・高橋大輔”はこちら(映画「蔵のある街」より)





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高橋大輔さんが映画初出演。そう聞いて、失礼ながらゲスト出演だろうと思っていたが、大間違いだった。
「僕自身も、出番が多くて大丈夫かなという不安はありました。でも、それ以上に期待に応えたいという気持ちの方が大きかった。初日はとても緊張しましたが、『やるしかない!』という気持ちで挑みました」(高橋さん)
映画「蔵のある街」は高橋さんの出身地、岡山県倉敷市が舞台。街に花火を打ち上げようと奔走する高校生たちの姿を通して、観る人に故郷のあり方を問いかける。
高橋さんが演じるのは美術館の学芸員、古城緑郎(こじょうろくろう)。主人公の高校生たちを励まし見守る重要な役どころだ。実はこの役、平松恵美子監督が高橋さんに当てて書いた。
僕自身も俯瞰して見る
「台本を読んでいく中ですごく感じたのは、登場人物の中で緑郎が一番冷静な人なのかな、ということ。僕自身も俯瞰(ふかん)して物事を見るところがあるので、あまり作り込まずに撮影に入りました」(同)
いちばん苦労したのは、居酒屋でヒロイン・紅子の父親とケンカをするシーンだ。「取っ組み合いのケンカをした経験がなかった」(高橋さん)から、テンションの高さや酔いの加減など、見当がつかなかった。
「撮影終了の時間が決まっていたので、本番が始まったらブワーッと血がのぼってしまって。セリフがかなり飛んだんです。焦れば焦るほどテンパってしまい、かなり時間がかかりました。1シーンをいろんなパターンで撮るわけですが、どこで何をどう思っていたのか、頭は真っ白。長かったセリフを細かく切っていただいて、みなさんにはご迷惑をおかけしました」
そもそも高橋さんが演技に目覚めたのは、初めて芝居を経験した2017年のアイスショー「氷艶(ひょうえん)」だった。
「この時、僕は初めて物語をつくっていくことや芝居で違う人物になることが好きだと気づいた。知れば知るほど難しい世界だなと思いましたが、好きだという気持ちを抑えきれず、お芝居の世界を選びました」

俳優の準備を怠らない
本作の撮影終了後、演技レッスンやボイストレーニングを開始した。「どこで何があるかわからない」と俳優としての準備を怠らない。
スケーターとしても「人前で演技ができないと思うまで滑りたい」と意欲的だが、俳優としての可能性を尋ねると、
「考えると一歩も踏み出せなくなっちゃうので、考えないようにしています(笑)」
そう照れたが、オファーが来たらと問えば、「来たらやりたいという気持ちはすごくあります」と即答した。
俳優・高橋大輔。楽しみが増えた。
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2025年8月25日号
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