
著者は、これを〈アニマシズムという群島的生命感覚〉と呼ぶ。アニマシズムはアニミズムとは異なる。アニミズム、つまり森羅万象すべてのものに生命が宿るという素朴な自然崇拝が日本の古代思想にあり、それゆえに日本人は自然に優しい、とするステレオタイプな思考に著者は反対する。むしろ〈森羅万象〉という統一的な思考の枠組みは、大陸文明的世界観であり、アニミズムという概念も西洋近代が生み出したものだとする。これに対して、アニマシズムは、人と人のあいだ、あるいは人ともののあいだに偶発的に立ち現れるものとして“いのち”を発見する生命観である。生命は、偶発的であるがゆえに、動的であり、絶えず速度を変えながら流転するものとしてある。このような生命観は、国土が一様ではなく、緩やかな関係(=あいだ)を保ちつつ、個別的な細部に分かれて存在する〈群島〉が育んだものだ。群島に住む人々はその個別の関係性から帰納的に世界を見るしかない。ここでは大陸的や演繹や要素還元主義が成り立たない。紙幅の関係で十分に触れることができないが、この視点から群島史が縄文から現代まで通観され、また文学から芸術、性から美意識にまで射程が伸びる。新書ながらゆうに2冊分の厚みを持つ大作であり、著者のライフワークと呼ぶべき大著である。読者の理解を助けるため見開き毎に1行要約があるところが好ましい。
※AERA 2025年8月25日号