
訪問介護の現場で、70代や80代のホームヘルパーが珍しくなくなっている。介護報酬改定でさらに低賃金に陥り、世代交代が進まない実態を取材した。AERA 2025年8月25日号より。
【気になるデータ】訪問介護事業の「倒産」件数の推移(グラフ)
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午後3時。猛暑のなかを自転車で走るのは、東京都内で訪問介護ヘルパーとして働く82歳の女性。15分ほどかけて向かう先は、利用者の女性(89)が待つ団地の一室だ。
「そりゃ暑いですよ。でも大変なんて思わないです。仕事ですから」
さらりとそう言って、掃除にかかる。利用者の女性は介護保険で「要支援2」の認定を受けている。食事や買い物に大きな支障はないが、腰に持病があり、浴室掃除などは難しい。1時間かけて、トイレや部屋の掃除をてきぱきとこなしていく。
ホームヘルパーの仕事を始めて20年ほど。いまは9人の利用者を担当している。利用者は78歳から90代まで、うち8人が女性だ。認知症の人もいれば、目が不自由な人もいる。仕事は買い物支援や掃除などの「生活支援」や、排泄介助などを含む「身体介護」など。利用回数も週に1回だったり複数回だったり、人によってさまざまだ。
「休みは日曜だけ。一日に4件、回る日もあります。収入は月に12万~13万円くらいです」
89歳の利用者は「とても助かっています。年齢が近いし、何げない会話も楽しいです」と話す。とはいえ、「82歳のホームヘルパーが89歳の利用者の介護を」と聞いて驚く人は多いのではないか。しかし──。
「高齢者による高齢者の訪問介護は、現場ではもう日常です」
こう話すのは、東洋大学教授で高齢者福祉・介護が専門の高野龍昭さん。背景には、訪問介護における深刻な人手不足があると指摘する。
「2010年代に入ったあたりから、高齢者介護分野の人材不足が顕在化しています。厚生労働省のデータで、ここ5、6年は介護職員全体の有効求人倍率が4倍前後で推移し、訪問介護の従事者に関しては15倍程度。求職者1人に対して15社が取り合っている、という現状です」
訪問介護事業者の倒産も相次ぐ。東京商工リサーチの調査によると、今年1~6月の倒産件数は45件で前年の同時期から5件増え、上半期としては2年連続で過去最多を更新した。原因について、高野教授はこう見る。
「経営がうまくいかず赤字がかさんだ結果という部分もなくはないですが、『働き手が確保できず事業継続が難しくなった』というケースも増えてきています」
そんな中で起きているのが、ホームヘルパーの高齢化だ。介護労働安定センターが2025年7月に発表した「介護労働実態調査」によると、訪問介護員に占める65歳以上の割合は、24.0%にのぼる。
「ホームヘルパーの世代交代が進まない現状では、人手の不足ではなく『枯渇』が、早ければ5年ほどで起きるのではないか。そんな危機的状況も懸念されます」
(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2025年8月25日号より抜粋
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