こうした状況の背景には、大手プラットフォーム企業による戦略的な動きがある。例えば、MetaはDMAを根拠として、Appleに対して複数の技術的アクセス要求を提出していることが報じられている。

 これらの要求は、表面上は「相互運用性」や「競争促進」を目的としているが、実際には競合他社の持つ貴重なユーザーデータへのアクセス権獲得という側面も無視できない。

 ユーザーは理論上、こうしたデータアクセスを許可するかどうかを選択できるはずだ。しかし現実には、「許可しなければアプリが使用できない」という条件を提示されることも多く、実質的な選択の自由は限定的である。規制当局が意図した「ユーザーの選択肢拡大」が、皮肉にも「選択を迫られる負担」に変質してしまっているのが現状だ。

萎縮効果がもたらす“イノベーションの停滞”

 SSCPAにも、セキュリティ、プライバシー、青少年保護といった観点からの例外規定は盛り込まれている。しかし、その適用範囲は限定的であり、より重要なのは、具体的な判断基準が明確に示されていないことだ。

 公正取引委員会が策定した実施ガイドラインを精査すると、禁止される行為の定義が抽象的で範囲が広いことがわかる。企業側から見れば、新機能を導入する際に「これが後に違反行為と判定されるリスク」を常に考慮しなければならない状況である。

 この不確実性は、特にAppleのようにハードウェアとソフトウェアの統合設計を強みとする企業にとって深刻な問題となる。従来であれば、プロセッサ、OS、アプリケーションの最適化により実現していた高いセキュリティ水準やユーザー体験の向上が、「自社優遇」と判定される恐れがあるためだ。

 結果として、企業は新技術の導入を躊躇し、既存サービスの改良も控えめになる。これは最終的に、ユーザーが享受できたはずの技術的恩恵を減少させることにつながる。

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