
今まで、日本のシンガーに興味はなかった
大学で日本語を学んでいる20歳のマルゴさんとアレキサンヌさんは一緒にコンサートに来場。二人は言う。
「今まで、日本のシンガーに興味はなかったの。でも、YouTubeで〈死ぬのがいいわ〉と〈花〉を聴いて、彼の世界がとても好きになったの。私たち、日本語を勉強しているから歌詞もわかるしね」

11歳のときから日本の音楽を聴いているという大学秘書のタティアナさん(47)は、
「フランスのミュージックの音とは異なる、そこがいいのよ。21年にフランスで日本の紅白歌合戦を観る機会があって、藤井風の〈きらり〉に出合った。それまでは米津玄師が一番だったけど、藤井風の歌、彼の声、彼の雰囲気が好きになった」
こう話すと、45ユーロ(約7800円)のコンサートのTシャツも購入し、苦労して手に入れたコンサートチケットをしっかり握りしめながら会場に入って行った。
シンプルなステージに見事な光の演出

ステージは中央に電子ピアノが置かれた、いたってシンプルなものだった。エレクトリックギター、ベース、ドラムのイントロ後、藤井風が登場した。
〈まつり〉からスタートしたコンサートでは、フランス人の観客のエネルギッシュな反応に藤井風が英語で観客に話しかける場面も。
「僕の名前は藤井風。28歳」「あなたたちの名前は?」
「ここで、あなたたちが何をしているのでしょう?」
「あなたたちのエネルギーに困惑しています」
彼の発する言葉には、日常のどこかで交わされる対話のような優しさが感じられる。
舞台は、シンプルなセットだが、光の演出は非常に見事だ。藤井風は、舞台の上を軽やかに動き回り、曲に合わせて、素足にサンダルで独特なスタイルで踊る。

並々ならぬエネルギー
観客が待ちに待った〈死ぬのがいいわ〉で会場の盛り上がりは最高潮に達し、藤井風は全15曲のラストに新曲の〈Hachikō〉を歌いあげて、かわいく両手で犬の耳を頭の上で作り、軽やかに舞台を去っていった。
コンサートが始まる前にインタビューしたファンたちに再度話を聞いてみると、コンサート後の感想も熱かった。
タリックさんは言う。
「藤井風のステージでのエネルギーは並々ならぬもので、ファンとの距離が近いことが感じられた。彼が、フランスのファンからこれほどのエネルギーを受けるとは思っていなかっただろう。コンサートは全体的にとてもよかったが、あっという間だった。もっとたくさんの曲を聴きたかった! 照明デザインは、この種のコンサート形式としては驚くほど良かった」