夫の実家に帰省すると、家事をしているのは「嫁」の自分を含めて女性ばかり。「結婚」への違和感が募る経験をした女性は少なくない(写真はイメージ)(写真:gettyimages)
夫の実家に帰省すると、家事をしているのは「嫁」の自分を含めて女性ばかり。「結婚」への違和感が募る経験をした女性は少なくない(写真はイメージ)(写真:gettyimages)
この記事の写真をすべて見る

 結婚したら女性側の名字が変わる、子どもも夫の姓になる。当たり前のように続いているこの制度が、結婚することのブレーキになり事実婚を選択する人もいる。また結婚後、「嫁」としての扱いに疑問を感じる人も。AERA 2025年7月28日号より。

【気になる数字】事実婚を選択した主な理由(グラフ)

 *  *  *

 夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」。6月に閉会した通常国会では、導入に向けた法案が衆院で28年ぶりに審議入りしたものの、採決は見送られた。自民党は参院選の公約でも触れていない。

「名前を失うということが、ほぼ女性に偏って強要されている。すごく理不尽なこと。若い世代に受け継がないという思いで活動しています」

 そう話すのは、一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事(49)だ。19歳で妊娠を機に学生結婚し、慣れ親しんだ姓を失った経験がある。

「元夫の姓になった途端に義両親の対応が変わった。『うちの嫁』になり、一番低い立場に置かれたんだと痛感しました」

 名字には思い入れがあったが、夫になる男性からも双方の親からも「本家の長男の嫁になるんだから」と言われ、選択の余地はなかったという。婚姻届を出した時には大きな喪失感を味わった。出産時に「自分ではない名前」で呼ばれることも苦しく、「鬱々と入院生活を送った」と話す。

 元夫の実家の集まりでは女性は立ち働き、男性たちは座ってお酒を飲んでいた。親族からのセクハラもあった。「嫁扱いをされるのは、自分の尊厳を削られる体験だった」と振り返る。

 井田さんが仕事に就こうとすると元夫は嫌がり、「好きで働くんだから」と保育園の費用は井田さんが払うようにと言われたという。

 38歳で離婚した。「名前変更に付随する『下に見る扱い』が離婚の遠因だったと思います」

 だが離婚したものの、井田さんが旧姓に戻すと子どもたちにも改姓させることになる。井田姓で築いてきたキャリアも途切れてしまうため、元夫の姓を使い続けることにした。

大量の名義変更手続き

 新しいパートナーができた時には事実婚を選択した。だがパートナーの手術時、病院で医療行為への同意を認めてもらえなかった。闘病生活が始まる可能性を考えて法律婚をし、再び井田さんが改姓した。

 子どもたちの姓は変えないようにするため、井田さんが戸籍筆頭者から抜けて夫の戸籍に入り、子どもたちだけ元の戸籍に残る形を取った。大量の名義変更手続きが必要になったという。

「あすには」は今年3月、事実婚などに関するインターネット調査を行った。スクリーニング対象20~59歳の1万人のうち、2%の人が事実婚をしていると回答。理由として「自分又は相手が改姓を望まないから」が約3割と最も多かった。

(フリーランス記者・山本奈朱香)

AERA 2025年7月28日号より抜粋

こちらの記事もおすすめ 【もっと読む】結婚しないことの良さは「離婚のしようがないこと」 家や姓に縛られない生き方の選択
[AERA最新号はこちら]