
ラブストーリーから “マリッジ・サスペンス”へ
一気に転調する物語。それまでの甘やかなムードが、ほんの数カットで張り詰めた空気へと変わる手腕は、脚本・大石静の真骨頂だろう。思えば、ネルラの言動の一つひとつが、不自然だった。なぜあんなに早く結婚を決めたのか? そもそも入院中の幸太郎からのメッセージを既読無視していたにも関わらず、唐突に家に誘ったのはなぜなのか?
過去の殺人疑惑が浮かび上がった今となっては、すべてが伏線だったのではと疑いたくなる。実際、ネルラというキャラクターには常にどこか演じているような影がある。笑っていても目が笑っていないというか。真っ直ぐ見ているようで、どこか焦点が定まっていないというか。松たか子が、その曖昧さを絶妙に支える演技をしている。
一方、幸太郎の揺れ方にも注目したい。50年間独身を貫いてきた男が、ようやく手に入れた「しあわせ」。それを信じたいという思いと、愛した人が加害者かもしれないという現実との間で揺れ動く表情。その人間臭さが、物語に深みを与えている。
ネルラの家族、刑事・黒川……全員怪しい!
このドラマの奇妙さは、ネルラの家族構成にも現れている。父、叔父、弟——家族みんなで同じマンションの上下階に住んでいて、週一の食事会を欠かさないという設定だけでも、なんだか気持ちがザワつく。
一見、仲良し家族に見えるが、ネルラはどこか義務のように受け入れている節がある。なぜこの家族はこうも密着しているのか? 過去の事件と関係があるのか? 疑い始めると、すべてが不穏な空気を纏って見えてくる。
そして、ネルラを執拗に追いかける刑事・黒川もまた、純粋な正義感では動いていないように見える。個人的な怨念、あるいは過去の執着。そういったものが混ざっているような気配があるのだ。果たして黒川は敵なのか味方なのか。それもまた、このドラマの謎のひとつである。

「しあわせな結婚」は、ただのラブストーリーでもなく、ただのサスペンスでもない。その中間でバランスを取りながら、夫婦とは何か、信頼とは何かを問いかけてくる。
幸せになりたくて結婚したふたり。だが、その先に待っていたのは“疑い”という壁だった。果たして彼らは、それを乗り越えて本当の“しあわせ”にたどり着くことができるのか。
観るたびに不穏な疑念が心に残り、だけど次の展開が気になってしかたがない。そんな“裏切られた快感”こそが、本作最大の魅力なのだと思う。
(北村有)
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